第12話

僕が物心ついた時には、隣にはいつも姉のエリーがいた。


エリーは幼い頃から、同じ歳だというのにお姉さんぶって何かと僕の世話をやきたがった。

僕が笑っているだけでエリーが幸せそうな顔をするから、僕まで幸せになった気がしていたんだ。


僕や家族といる時は、よく笑うエリーだけど1人になると難しい顔をして何かを考え込んでいる姿を何度も見かけた。

両親や祖父母もそれには気づいていたけど、黙って見守っているようだった。


そして家庭教師がついた頃から、何かに追われるように学んでいる姿を見ていて、いつかエリーがどこか遠い所に行くかもしれないと漠然と思ったんだ。



6歳の時、王宮のお茶会に招待された時に気づいたんだ。

王子たちが登場した瞬間、初めて会ったはずなのにエリーの顔が真っ青になって震えていることに。


僕の世話をすることで落ち着いたのか、いつものエリーに戻ったけれど、他の令嬢たちは2人の王子に群がって自分のことをアピールしているのに、エリーは王子たちを避けて目も合わせようとしなかった。


そして僕の世話を喜でしているエリーのことを第一王子が見ていることにも気づいてしまった。

その時は何事もなく帰ってきたが、次の年からのお茶会でも、エリーは王子たちに近づこうとしなかった。


他にも優良物件と言われる令息に話しかけられても、挨拶するだけで交流しようとはしなかった。


毎回適当な時間が過ぎると急いで帰ろうとする理由も分からないが、エリーが帰るなり両親や祖父母に泣きついてまで王子を嫌がっている理由も分からない。


まあ、嘘泣きだと皆んなが気づいているのにエリーだけがバレていないと思っているところが、我が姉ながらバカだなと思う。


まあ、確かにエリーに対して第一王子の態度や言い方には問題があるが、僕が見る限り第一王子はエリーのことが気になっているのは間違いないだろう。


お茶会で聞く第一王子の評判は眉目秀麗、頭脳明晰、文武両道、品行方正と完璧王子と聞くが、なぜかエリーに対しては当てはまらない。


僕から見ても王子が緊張して傲慢な言い方になってしまったのだろうと予測できるが、エリーには伝わらない。鈍いからね。


エリーは僕のことを"可愛い!とっても美形よ!"ってよく言っているが、それはエリーの方だ。


エリーはいつも背筋をピンと伸ばし、凛とした佇まいが近づき難い雰囲気を醸し出しているが、そんなエリーを遠目で見ている令息はすごく多い。

ただでさえ僕と同じ紫がかった銀髪は目立つ。真っ白な肌に小さな顔、赤みがかった紫の瞳はキツめだがエリーは誰よりも綺麗で人目を引く。


そんなエリーが僕にだけ、笑顔を見せるんだ、キツい雰囲気が一転して凄く可愛くなる。天使の笑顔ってやつだ。

その笑顔を見てしまえばエリーに惹かれてしまうのも無理はない。


きっと第一王子もそれにやられたのだと思う。


それなのに『お前なんか嫌いだ!二度と王宮に来るな!』なんて言うものだから、ずっと避けていたエリーはご褒美を貰ったかのように笑顔で『承知致しました』と僕を連れて意気揚々と帰ったんだ。


エリーの満面の笑顔を見た王子は真っ赤になって見惚れていた。

すぐに我に返った王子はエリーを引き留めようと「待ってくれ」と発した言葉は背を向けたエリーには届かなかった。



この頃から、エリーの何かに追い詰められているような姿を見ることがなくなってきた。

本来のエリーの性格が出てきたように思う。



そして、養子の話が出た時には嬉々として自分がいくと言い出した。

家族を誰よりも大事にしているのに、きっとエリーは何かしらの理由でこの国にいたくないのだろう。

それは両親も祖父母も気づいたようだった。

だから、反対出来なかったんだ。


それでも大切な姉なんだ。

養子に行くまでは僕が側で見守ろう。


何を仕出かすか分からないエリーには、まだ僕が必要だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る