第23話 意地と拳と魔拳少女
銃声がビルの谷間に鳴り響く。もう銃声っていうよりマシンガン、ガトリング、そういう感じだ。銃声と銃声が連なって一つに聞こえてしまうほどの連射音。
音に弾丸をばら撒くココをスライムが縦横無尽に追っていくのが見えた。弾丸に貫かれながらも追いかけるのをやめない。ビルを壊し、街路樹を薙ぎ払い、道を壊しながら進んでいく。痛みなんて感じないんだろう。躊躇いがない。ただただ音を追っかけるみたいな、動いてるものを追いかけてるみたいに見えた。
「……そういえば人が全然いない」
別に今はいなくていいけど。中層の、こんな寂れた区域だから人気がないってのはあるけど、ここまで居ないのは不自然だ。さっきラブホテルで助けた人たちくらいしか見ていない。
「魔物のシナリオによりけりだが、今回は、外部の助けを呼ばせないように離れさせているみたいだな。 元々ラブホテルからは誰も脱出できないシナリオだ。偶然人がいなくなっているという風に調整されている。だから電話も通じないし、ネットも繋がらない。
これも魔物の能力と言えるだろう」
「そっか……。怪我の功名だね」
逆に言えば人気が異様にない場所は、魔物がいる可能性があるってことか。覚えておこう。
「それでベリアル。どこが怪しいと思う」
「魔物の気配が強い場所。そして何よりスライムが攻撃を受けないように庇う場所」
「だとすると体の真ん中の方かな。体の厚みで攻撃をしのげるし」
「可能性は高いな。だが確証はない……むう……」
ベリアルが考え込んでしまった。私もこれといって良いアイディア。確証のある言葉が作れない。
時間がない。ココだって無限に引きつけられるわけじゃない。上から眺めているこの歯がゆい状況を早いところ終わらせて、駆けつけたい。ただ無策で衝動に走ってもココに迷惑をかけるだけ。
どうする、私。考えろ、私。何か……何か……。
「…………あれ」
着弾の衝撃と炸裂に飛び散るスライムの破片が目に映った。そういえば、あれって。考えている合間に、路上に落ちて、その反発力で跳ねながらスライムの元に戻っていく。
「……そっか。それならいけるかも」
「ミハ?」
「ベリアル。私、思いついたよ。ちょっと危ないことになるけどいい感じにカバーしてほしい」
「何をする気だ」
「なにって、もちろん」
笑って、右の拳で左の掌を叩いて鳴らしてみせる。
「叩くのよ。いつもどおりね」
「あれに触れたらどうなるか──愚問だな。分かった。できる限りカバーする。少しだけ時間をくれ」
「お願い」
とか言ってると左手のガントレットが消えて、代わりに右手のガントレットの外装に張り付いた。破損していた部分を補うように、攻撃力を高めるように。ただやっぱり2つを1つにした分、少し重い。若干のアンバランス。でもその違和感もすぐに消えた。
「──よし。これなら保つはずだ」
「うん、ありがと。私の言うこと、友だちに伝えてもらえる?」
「友だち……友だち……トモ、ダチ……?」
「怪物になって心を無くしていく過程? アスモダイさんだよ。さっきの丁寧な人……悪魔か」
「さんづけ……!?」
「そんなにショック受けるとこだったかな」
「やつなど呼び捨てでいい。興味なかったくせになぜ来たのかも分からん」
一通りぐちぐちと言った後、ベリアルは、こほんと咳払い。
「とりあえず伝えるのは問題ない。言ってくれ、ミハ」
「それじゃあ────」
簡潔に、できるだけ簡潔に伝えた。「なるほど」とベリアルが頷いて納得した。
「確かに、それをやるには殴るしか無い」
「私は、今できることがこれくらいしか思いつかなかった」
「いい案だと思う。……君が一番危険なところを除けばね」
「しょうがないよ。誰かがやらなきゃ。今この場にはそれができるのも思いついたのも私だけ。誰かにお願いはできないよ」
「…………ぐす」
「ベリアル?」
「立派に……なって……誇らしい……」
「泣かないでよ、もう」
急に号泣しだしたベリアルに苦笑が浮かぶ。そこまでに感極まることかな。
「ほらベリアル、そろそろ行かなきゃ」
「ふぅ、すまない……。君の言葉はアスモダイのやつには伝えている。いつでもいいぞ」
「うん。それじゃあ行こう。後悔を届けに──!」
跳ぶ。ビルに開いた大穴から身を投げるように、私は、加速して跳んだ。穴の開いたビルより低いビルに着地して、屋上から屋上に跳ぶ。目指す先には、ビルの谷間を埋めるスライムと戦うココの姿。
「価値無し! 意味無し! 等しく無価値!」
「汝、ここに在るべき価値無し!」
ベリアルの詠唱に合わせて、ビルの上から跳ぶ──直下には、スライムがある。
「一発目ぇ!!」
右のガントレットから青と黒の炎、ベリアルの炎が唸りを上げて吹き上がる。いつもの倍はある。2つを1つにしたのだから当然とも言える。
重く、強く。そして、早く。ガントレットから吹き出す炎が推進力となって、私の体を加速させた。
視界の隅で、ココがスライムから走って離れていくのが見えた。
よし、大丈夫。いける。やれる。私はやれる。問題ない! 息を吸って。
「ベリアール──」
青と黒の火花が視界に散った。太陽みたいに熱く青く、私の意思に答えるように右のガントレットが輝いた。
「「──インパクトぉ!!」」
激突──押し込む!! 強く、もっと強く! 強く!!
「行っけぇぇぇぇぇぇええええええ!!」
────私の意思を他所に、ガントレットが軋む音を聞いた。
「構うな、ミハっ!」
ベリアルの言葉に背中を押され、私はガントレットを更に押し込んだ。
「もっと! もっと!!」
強く、力を込めて。
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