第4話 ぼっちと悪魔とお昼休み



「ふわ……」


 ぐぐっと体を伸ばすと背骨がぱきぱき鳴った。机で寝るとどうしても体が硬くなる。

 緑の部屋と部屋の主を倒した私は、普段どおりちゃんと通学していた。遅刻もしなかった。とっても偉いと思う。


「ミハ、眠そうだな」


「そりゃそうだよ。昨日というか今日、寝たの午前4時だよ? 起きてシャワー浴びて、着替えて学校来れたの褒めてほしいくらい」


「それは偉い」


 やった褒められた。 


「だが授業中爆睡だっただろう」


 それはそう。


「でも眠いの。眠いんだから仕方ないよ。それにどうせ先生も私のことは見てないしね」

 

「むぅ……」


 ここの購買のパン、初めて買ったけど結構美味しい。どうりで食堂が混んでるはずだ。混んでたけど私が行くだけで道ができるの面白すぎる。私はモーゼか。クロワッサンサンドを置いて、他のパンに手を伸ばす。

 

「うん、カレーパンも美味しい」


 朝もギリギリまで寝てたからお弁当が作れなくて、購買で買ったけどお腹が空いてていっぱい買ってしまった。寝る前まで怪物退治してたのもあると思う。


「なんにしても授業はちゃんと聞いたほうがいい。俺もやり方を改める。夜の活動は控えよう」

 

「……悪魔なのにそういうとこすごい気にするね」


 私の思うにあんまり悪魔らしくない。悪魔ってこういうのを推進する方だと思う。


「推しには勉学もちゃんと励んでほしいし、健康であって欲しいからな。それはそうとお昼が見た限りパンばかりだからサラダを作ってきた」


 すすっとどこからともなく小さめのタッパーに入れられたコールスローサラダが出てきた。


「え? そんな時間あった? というかどこで?」


「悪魔には悪魔的秘密が多いんだ」


 意味が分からない。とりあえず食べてみよう。


「美味しい……」


 しゃきしゃきの歯ごたえのする野菜に、マヨネーズのコクとすっぱさ。爽やかなのはさっとかけたレモンと刻んだパセリのおかげ? 水っぽくもないしパンの油をすっきりさせてくれる。シンプルに料理が上手い。


「わっ……推しの体を作れてる。……涙が出てきたな。アスモダイとニスロクに料理習っておいてよかった」


 反応が気持ち悪くて減点しそうになるのが本当にだめ。頑張ってダンディな雰囲気を保ってほしい。


「えっと七不思議は、緑の部屋で終わりでいいんだよね?」


「うむ。女子トイレ、階段の踊り場の鏡、緑の部屋は本物だ。他4つは付随物、ただの噂、怖い話に過ぎない」


「そっか」


 ベリアルが言うなら間違いないんだと思う。

 〈ダークプロヴィデンス 〜少女惨劇録〜〉、認めたくないけど私の原作では、無数の殺人鬼、悪霊、その原因の魔物に私とその他が襲われてエロい目とか痛い目とか死んだりとかする。

 ベリアルは私の原作ファン。だからこれから起こることが分かる。なのでそれが起こる前に私たちは原因を潰して回っている。どれだけ潰せばいいんだろ……。後で確認しよう。

 それはそうと直近で私が巻き込まれるのは、昨夜の緑の部屋。他2つは番外編。そこで犠牲になる人たちがいるとか。名前を聞いてもピンと来なかった。知らない人、ではあるけど……。


「まあ、気分はいいよね」


 ふふと笑みがこぼれてしまう。なんか良いことしたっていう達成感でパンが美味しい。また今度買おう。

 教室の窓より高い位置から眺めるトーキョーメガフロートの景色は結構良い。

 このメガフロートは、大きなプレートの上に一回り小さいプレートを重ねていくピラミッド型になっている。その中腹くらいに学校はあるから天気が良ければ高層ビルやモノレール、ハイウェイの向こうの海まで見える。


「風がきもちいい〜〜」


 そして、良いことをしたおかげで今日の屋上は気持ちのいい天気。夏の暑さも和らいで秋口の風は心地が良い。これも日頃の行い──というよりこれは悪魔様様って感じ。悪魔崇拝しちゃうかもしれない。

 ……いやもう信者なのかもしれない。

 ベリアルと出会うまではトイレか人気のない教室とかだけど、今は変身できるのでこうして鍵のかかってる屋上に不法侵入もできる。独り占めサイコー。


「ふっ……ミハ、写真一枚撮っていいか?」


「最悪だよ」


 ニヒルな微笑みから出力される仕草があまりにきもすぎる。せっかくいい感じなのに台無し。ほんと締まらないなあ。呆れてついデコピンを食らわせた。ふよふよ浮いてたベリアルが空中で軽く仰け反った。


「うご……永久保存」


「なにそれ」


 マスコット顔でも分かる恍惚とした表情を浮かべるベリアルは、流石に気持ち悪いなって思った。

 でもこんな風にお昼が楽しいのは久々。それだけでもベリアルがいてくれる価値はあると思う。

 コールスローサラダのタッパーを空にして、フィッシュバーガーの最後の一切れを噛み終わった口の中をオレンジジュースで流した。うん、満腹。午後もよく寝れそう。


「ごちそうさま。コールスローサラダ美味しかったよ。また作ってね」


「………っ!!!! ……それはよかった」


 すごい勢いでベリアルが私に背中を向けた。なぜか震えている。なんだろう? さっきまでと反応が違いすぎてちょっと戸惑ってしまう。


「……大丈夫?」


「大丈夫だ。問題ない。目に、埃が入っただけだ……雨も、降ってきたな」


 めっちゃ晴れてるけどね。まあいいや。適当に流そ。


「あ、そう? それで次はどうするの?」


 七不思議を壊滅させただけで私の受難が終わるとは思えない。七不思議だけしかないのは連載も持たないし。多分、この前のネックハンガーみたいなのだろうけど。そういえば悪霊はまだだね。


「うむ……」と重々しくベリアルは頷いて、「次は、ミハの通学路に巣食う殺人鬼たちを一掃しよう」


 予想は当たったけど”たち”ってなに? 


「……私の通学路の治安どうなってるの?」

 

「……神を恨んでくれ」


 原作者かみさまの馬鹿野郎──!!


 

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