ホラーエロ漫画の巻き込まれ主人公ですが、陵辱されたくないので魔法少女始めます。

来栖

第1話 魔法少女と悪魔と緑の部屋


 

 トーキョーメガフロートは、その新しい都市に不似合いな、都市伝説とか七不思議とか心霊スポットとかのオカルトが大流行中。


 海面上昇で沈みきった東京の上にトーキョーメガフロートは浮かんでいて、古き良き東京の姿と新しい東京が入り交じった奇妙な姿をしている。この海に浮かぶ人工の東京を作るのに、世界各国から技術を提供してもらって作ったんだから間違いなく人類のテクノロジーの結晶だ。


 そんな由来があって、都市伝説とかそういうオカルトとかけ離れたイメージのある都市なのに、実際そんなのが流行ってる。


 ネットでも、教室でも、街角でも。


 どこにいってもそこらかしこに。


 私も何故の答えが最近まで出せなかった。不思議でしょうがなかった。


 でも、つい最近答えが出た。


 「この緑の部屋、どこまで続いてるの……?」


 ――そのオカルトが実在するからに他ならない。


 私の通う学校七不思議の一つ、緑の教室(他の学校には、赤とか青とかがあるらしい。そういうものなの?)。


 とある空き教室のロッカーが真夜中になると緑色の部屋に続いていて、そこには、よくわからないものが住んでいる。という話。


 よくわからないものというのは、よくわからないからよくわからない。出会って何かあるってのは、特に聞いてない。他の学校だと願いを叶えてもらえたり、同じよくわからないものにされたりするらしい。


「うむ。実際に見ると想定していたよりも随分と広いな」


 とある教室を特定してからその緑の部屋に入って、探索を始めてからそれなりに経つ。


 一面緑。同じ緑。グリーンバックみたいな緑。目が痛くなりそうな部屋。そんな部屋がいくつも繋がっている。広さとか天井の高さは不均等。床に凹凸、突然穴。明かりもあったりなかったり。ランダム生成されたみたい。


 入ったら入り口が消えてしまったので、こうして見て回ってるんだけどすぐにどこから入ったのか分からなくなった。似たような部屋が多すぎる。


「感心してる場合じゃないよ。ベリアル。私、明日も学校」


 もういい時間だし、早く帰りたい。ちょっと眠くなってきた。普段飲まないエナジードリンクとか入れてるけど効きは微妙。あれ、あんまり美味しくないと思う。


「そうだな。さっさと済ませよう。そのよくわからないものとやらがそろそろ出てくるはずだ」


 私の隣でふわふわしているナスみたいな色をしているぽてっとしたのがベリアル。悪魔という自己申告を受けてる。だからきっと悪魔。


「そうなの? よくわからないとしか言ってないけどいつもどおりにいけるんだよね?」


 いつもどおりにいけないと困る。ベリアルもよくわからないってしか言わない。原作がよくわからないらしいからとか。意味分かんないよね。


「いける。特に心配しなくていい」


「信じてr『ウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――!!!!』ひっ……」


「む、来たか」


「来たか、じゃないんだけど!?」


 サイレンみたいな叫び声が突然、聞こえてきた。後ろ、振り返る――突進してくる、よくわからないぐちゃぐちゃしたものが迫ってきていた。


「はっや!」


 急いで、ほとんど反射で横に跳ぶと私の居たところをダンプカーみたいな速度で通り過ぎて、壁にぶつかった。床が揺れた。ばきばきっと衝撃が伝播して、壁に亀裂が入った。


「……ほんとによく分かんないね」


 例えるなら、2歳くらいの子供が鉛筆でらくがき帳に書きなぐった馬? みたいな? 細かいディテールを排除した、鉛筆の線が複雑にからんだ四足歩行の化け物ってところ。


「だろう? 原作が悪い」


 遠回しに私もディスられてる気がする。まあいいや。さっさとやっちゃおう。いつもの通り……いつも……。


「ねえ、ベリアル」


「なんだ、ミハ」


「いつものやつでいけるんだよね?」


「当たり前だ」


 当然とベリアルが低音セクシーボイスで答える。くっ、頭に響くぅ……。


「もし……もしだけど……だめだったら?」


「もしはないが……■■■■が■■で■■■■■されて――「あ、大丈夫。うん大丈夫」――うむ、そうか」


 やる気が湧いてきた。やるぞー。絶対やるぞー。エイエイオー!


「だめはない。なぜなら原作改変のために、俺がいるからだ。もしもない。ミハもホラーエロ漫画路線は嫌だろう」


「そりゃそれは嫌だよ……。嫌だしやってやるぞってなるけど。やっぱ怖いんだよ……」


 この前の殺人鬼の時は、それはもう激おこだったし、とんでたから勢いでいけたけど。冷静になると殺人鬼も怖いし、よくわからないのも怖い。 


「ぐちゃぐちゃ言ってる時間はないぞ、ミハ」


 時間というものは冷徹で、そこのよくわからないのが私たちの方へ振り返りつつあった。悠長しすぎた。覚悟決めるかぁ……。


「……やろう、ベリアル」


「流石だ、俺の推し」


「それ恥ずかしいからやめてよ……」


「やめない。俺の存在意義だ」


「そっか……」


 ベリアルの説得が無意味なのは分かりきってた。そんなことより大切なことがある。既に、よくわからないものが私を見てる。


『ウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――!!!!』


 そして、叫んだ。


「後悔させてあげる」


 ベリアルが私のかざした掌に、形を変えて収まる。掌の中で、デフォルメされたベリアルの瞳が黄金色に輝いた。


「私と出会ったこと」


 同時に、腰に現れたバックルの空白へ、ベリアルを押し込む。


『無秩序! 無意味! 無価値!』 


 するといつもどおりにベリアルが低い声を、地を這うような声を上げる。ついでにドラムとベースの効いたヘヴィなBGMが鳴る。相変わらず音源が分からない。どこからともなく聞こえてくる。

 ベリアルが言うに、これをやると気合が入るらしい。恥ずかしいけど誰も見てないのでいいとする。誰かの目の前でやる日が来ないといいんだけどな。


『無のトリプルエレメンツ!』


 青と黒の炎が、空間にひび割れを入れながら円を作っていく。円の中には、6を3つ重ねたものとよくわからない言語が所狭しと書き込まれていき、結果、魔法陣のようなものになった。完成した魔法陣は、私の周囲を周りながら炎を吹きかける。吹きかけられた炎が私の体にまとわりついて、一気に全身に伝播する。熱くはない。少し、冷たいくらい。


『悪徳の為の悪徳!』


『悪魔の中の悪魔!』


 やっぱり長いよこr――あ、私の番だ。


「――変身!」


 ……でもなんだかんだ気合が入るので馬鹿にはできないなって思う。


「魔拳少女 ベリ☆エル!」


 私を覆った炎が弾け跳ぶ。その中から現れた私は、制服の代わりにこの姿の正装をまとっている。


 白地に紫の花柄の着物、下は、黒のシンプルな袴風スカート、足は焦げ茶の編み上げロングブーツ。


 白髪もアップで編み込みながら後ろに流してすっきり。


 そして、両手には、黒と金の無骨で、ゴツゴツしてて痛そうなガントレット。


「この辺のセンスはいいのになぁ!!」


 突進してきたよくわからないものに、私は、カウンター気味に腹いせ混じりのアッパーを頭?の下辺りに叩き込んだ。いい手応え! 食らった勢いそのままに、どたんばたんとよくわからないものが部屋の反対側に転がっていく。


「ベリアル、さっさと決めよう」


 よくわからないものは、まだ立ち上がる。戦意を示すようにぶるんと頭を振った後、後ろ足で床を蹴って、加速の準備をしてる。すぐに突進してくるのは一目瞭然だった。

 よくわからないって言ってるけどやっぱり挙動が馬だよあれ。動画で見たことあるよあの動き。


「わかった。必ず当てろ」


「はいはい。必殺技だもんね」


 落ち着け私。漫画みたいに動けるんだから動けよ私。さっきもできたんだし。やれる。私はやれるー!


『価値無し! 意味無し! 等しく無価値!』


 必殺技には、前口上がいるらしい。分からなくもない。せっかく必殺技が使えるなら私だって考えるかもしれない。


『汝、ここに在るべき価値無し!』


 私たちの必殺技に気づいたのかダンっと緑の部屋が揺れそうなほどの衝撃を床に叩きつけて、よくわからないものが突進してくる。距離なんてあっという間に縮められる。きゅっと、高いところから見下ろすみたいな感覚が襲う。構えを解いて後ろに下がりそうになる足を押さえた。


「ホラーもエロも! みーんなまとめて無に還れ!!」


 代わりに叫んだ。

 青と黒の炎が両腕のガントレットから吹き出る。ブーツからもぼっと炎が吹く。よくわからないものに遅れて、私たちも加速した。部屋の床を大きく割る感触が足裏に伝わってきて、視界が急加速。


 正面衝突。ただし――。


「ベリアール――!!」


 ――私たちの方が強い。自動車が人を跳ね飛ばすみたいに、道端の空き缶を蹴り飛ばすみたいに、よくわからないものの頭を私の踵が床に叩き落とすのをスローモーションで見た。

 床に食い込むよくわからないもの、その上の空中に私。ぐっと握った右手がさらに強く炎を纏う。炎が変身の時と同じような魔法陣を右手の先に描く。


「「インッ、パクトォ!!」」


 自由落下と、炎の後押しを受けた右手を振り下ろすのと同時に、よくわからないものが悲鳴を上げて砕け散った。緑の部屋に大きな衝撃が走った後、床から柱、壁へと亀裂が入っていく。

 よくわからないものと一緒に緑の部屋も崩れていこうとしていた。


 

 ――これは、私が私を推す変な悪魔と一緒に、自分の未来を変える物語。

 


 ――これは、私の原作ジャンルをホラーエロ漫画からバトル漫画にする物語。

 

「誰がエロい目になんてあうものかーー!!」


 ――つまり、ホラーをぶん殴って分からせる!


 崩れ落ちる緑の部屋の中心で、私は、叫んでいた。


 同時に思い出したのは、私がこうやって戦うことになったきっかけ。手に残った爽快感が記憶を起こしてくる。


 それは、ほんの数日前のこと。


 私が殺人鬼に攫われた日のこと。


 

 

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