それはどこかで聞いたような話
梨子ぴん
それはどこかで聞いたような話
お母様……。
あら、どうしたのメアリー?
雷が怖くて眠れないの。一緒に寝てもいい?
ええ、構わないわよ。こちらへいらっしゃい。
うん。
さあ、ベッドの中へお入り。
……ねえ、何かお話して欲しいな。
欲張りさんねえ。
ダメ?
いいわ、じゃあ少しだけお話しましょうか……。
『林檎娘』
昔々あるところに、女の子がいました。その子は林檎のように赤い頬をしていたので、村人達から“林檎娘”と呼ばれていました。けれども、女の子はその呼び名が大嫌いでした。なぜなら、女の子は林檎が大の苦手だったのです。
「おお、娘。どうして貴方はそんなにも林檎が嫌いなの?」
林檎娘の母親は娘に問いかけました。
「だって、林檎って変な食感がするし、何より毎日食卓に林檎があるのがそもそも嫌なのよ。林檎なんて飽きちゃったわ。」
林檎娘はげんなりした顔で言いました。
「そんなことを言わないでちょうだい。うちは林檎農家だから、林檎がないと生きていけないのよ。」
「そんなこと、わかってるわよ。」
娘は頬を膨らまし、拗ねたように言い、母親はどうしたものかしら、と困り顔でした。
「おじさん、何を作っているの。」
おじさんは、白い服に白い帽子を被っており、林檎娘が見たことのない奇妙な格好をしていました。辺りは甘い匂いで充満していました。
「ああ、僕のことを言ってるのかな。」
「そうよ。ねえ、何を作ってるの。すごく良い匂いがするのだけれど。」
林檎娘は気になって仕方ない、といった様子でうずうずしていました。
「おじさんはね、アップルパイを作っているんだよ。」
「……アップルパイ。」
「そうだよ、林檎は好きかい?」
「いいえ、嫌いよ。」
林檎娘は落胆しました。よりにもよって、嫌というほど見て食べている林檎のパイだなんて! と。
「まあまあ、そうがっかりしないで。一口食べてごらんなさい。紅茶も付けてあげよう。」
林檎娘の様子を見たおじさんは、宥めるように言いました。そっぽを向いていた林檎娘でしたが、お腹がぐーっと鳴ったので渋々アップルパイを食べさせてもらうことにしました。
「お待たせ。アップルパイとアップルティーだよ。」
「林檎のパイに林檎のお茶?」
「そうだね。さあ、召し上がれ。」
アップルパイも、アップルティーからも林檎娘好みの優しい甘い香りがしています。林檎娘はアップルパイにフォークをおずおずと突き刺し、口に運びました。林檎娘は口の中で二、三回ほど噛んでいましたが、突然目を輝かせ、おじさんに言いました。
「このアップルパイ、すごく美味しい!」
林檎娘はすぐさま新しいアップルパイの欠片を口の中に放り込みました。その様子をおじさんはニコニコしながら見ていました。
「パイ生地が美味しいのはもちろんなのだけれど、林檎が柔らくて甘酸っぱくてちょうどいいの。不思議なものね……。」
「そうかい。そこまで喜んでもらえると嬉しいな。じゃあ、このアップルティーも飲んでみてはどうかな。自信作なんだ。」
「……ええ、いただくわ。」
林檎娘はアップルティーを静かに一口飲みました。
「ああ、なんてこと。少し林檎の風味がするものだから、よけいに美味しいわ。」
林檎娘は悔しそうに言いました。ですが、その顔はとても温かな笑顔になっていました。おじさんは、満足げに微笑み、林檎娘に尋ねました。
「どうだい。林檎も良いものだろう。」
「ええ、そうね。少し林檎を侮っていたかもしれないわ。」
林檎娘はと空になったカップと皿をしげしげと見ました。
「ところでお嬢さん。」
「何かしら。」
「このアップルパイとアップルティーに使った林檎、どこで買ったものだと思う?」
「さあ。知らないわ。……高級林檎かしら?」
「ふふ。実はね、君の家で作った林檎なんだよ。」
「なんですって!」
林檎娘は大きな声を出さずにはいられない位、ひどく驚きました。いつも食卓にある林檎が、こんなに美味しく化けるなど到底思えなかったからです。
「嘘よ、うちの林檎はそこまで美味しくないわ。」
「いやいや、君の家の林檎は一級品だよ。しかも、熱を入れると一層甘くなるから、パイとはとても相性が良いんだ。」
「でも、家で食べる林檎は苦かったりするのだけれど。」
「それは多分、商品にならないものを家で消費しているからじゃないかな。」
林檎娘は戸惑っていましたが、くすくす笑い始めました。
「ふふふ、林檎って案外美味しいのね。料理、いつか教えてくださる?」
「いいとも。よろしくね、林檎娘さん。」
それからというもの、林檎娘はおじさんの元に足繁く通い、林檎の料理がとても上手になりました。相変わらず女の子は林檎娘と呼ばれましたが、その時はこう返しました。
「そうよ、私は林檎娘よ。ああ、とびきり美味しい林檎はいかが?」
『魔法の靴』
あるところに、とてもよく働く若い娘がいました。娘の家は、裕福ではありませんでしたが、幸せな日々を送っていました。
しかし、ある日のことです。娘の母親が病に臥してしまいました。
「ごめんなさい、フィオナ。一番の稼ぎ時に働けなくて。お前には負担をかけてばかりね。」
「いいのよ、お母様。私頑張るわ。お父様もお兄様もいることだし、そこまで不安がることないわよ。」
「そうね……。」
ですが、母親の容態は日に日に悪化していきました。お医者様にも診てもらいましたが、どうすることもできぬまま、時間だけが過ぎていきました。
「フィオナ、こちらへいらっしゃい。」
母親が手招きをし、自身が横たわるベッドの横の椅子に、フィオナを座らせました。
「どうしたの、お母様。どこか痛いの?」
フィオナは心配そうに母親を見つめましたが、母親は首を横に振って言いました。
「お前にあげたいものがあるの。」
「私に?」
「そうよ、あの机の上に置いてある箱の中身を見てごらん。」
「わかったわ。」
フィオナは素直に母親の言うことに従い、箱を開けました。すると、中にあったのは美しい青い靴でした。
「綺麗……。」
「そうでしょう。私が一生懸命選んだもの。お前の青い瞳にきっとよく似合うと思ったから。」
「お母様、ありがとう。」
フィオナは目に涙を溜めながら、母に感謝の言葉を述べました。
「さあ、フィオナ。私の用事はこれでおしまい。家の仕事を手伝ってきてちょうだいな。」
「わかったわ。」
フィオナは先に仕事を始めている父と兄に追いつくべく、急いで部屋を出ました。母親は、穏やかにフィオナの後ろ姿を眺めていました。
そして、その数ヵ月後にフィオナの母親は静かに息を引き取りました。
フィオナは嗚咽をあげてうずくまっていました。母親の死を受け入れるのがひどく辛かったのです。見るに見かねたフィオナの兄が、フィオナに話しかけました。
「フィオナ、そろそろ泣き止みなよ。もうすぐ葬儀なんだ。いつまでも泣いていたら母さんが悲しむ。」
「キャロルお兄様、わかってはいるのよ。でも、どうしても体が言うことを聞かないの。」
フィオナはさらに激しく泣き始め、キャロルは困り果ててしまいました。
「なあ、お前の好物があるんだが食べるか?」
「いらないわ。そっとしておいて。」
「……俺だって母さんが死んで辛いさ。」
気づくとキャロルの顔はぐしゃぐしゃで、今にも泣き出しそうな有様でした。フィオナは何も答えることができず、ただ泣いているだけでした。
数時間経ったころ、今度はフィオナの父親がフィオナの元へとやって来ました。
「フィオナ、少しいいかい。」
「はい。」
「キャロルから少し話を聞いたよ。母さんが死んで悲しいのだろう。」
「ええ、病気が良くはならないことはわかっていたけれど、あまりにも早すぎるわ。」
「そうだね。父さんも悔しいよ。」
「お母様だって本当はもっと生きたかったはずよ。なのに、なのに。」
「……フィオナ、母さんから靴を貰ったと言っていたね。」
「ええ。それがどうかしたの。」
「その靴を今度の集会の時に履くといい。素晴らしい靴なんだ、きちんと履かないと意味がない。」
「でも……。」
「いいね。」
父親は真剣な面持ちでフィオナを見ました。よく見ると、父親の目は赤く腫れており、フィオナは母親から貰った靴を履くことを決めました。
母親の葬儀は滞りなく終わり、フィオナは毎年決まって催される集会に、美しい青い靴を履いていきました。周囲の人々はよく似合っている、と褒めてくれました。フィオナは心が締め付けられるようで、しかし上機嫌に集会に臨むと、一人の青年が言いました。
「ああ、君の青い瞳と青い靴は、本当に映えるね。」
フィオナはその一言を聞いた途端、涙が止まりませんでした。青年は慌ててフィオナに駆け寄り、何か非があったのなら謝る、と申し出ました。しかし、フィオナはそれを断りました。
「違うの。貴方が言ってくれた言葉は嬉しいのだけれど、とても悲しくて。ごめんなさい、急に泣き出してしまって。」
フィオナはすぐさま立ち去りましたが、青年はぼんやりと立っているだけでした。
「フィオナ。お前に手紙だ。……クリスからだそうだが、知り合いか?」
キャロルは手に持った手紙をひらひらさせていました。
「いいえ、知らない人よ。何の用かしら。」
フィオナは手紙を開け、読み進めていくうちに顔を曇らせました。
「どうしたんだ。嫌なことでも書いてあったのか。」
「そうじゃないの。どうやら、私の青い靴を作ってくれた職人さんからの手紙みたい。でも、不備があったかもしれないから持ってきてほしいそうよ。」
「? いいじゃないか。直してもらえよ。」
「それだと、お母様から貰った靴じゃなくなってしまうわ。」
キャロルは頭を掻き、深い溜息を吐きました。
「靴なんだから、長く使えるにこしたことはないだろ。」
「……そうね。」
フィオナは寂しそうに青い靴を撫でました。つるりとしていて、とても気持ちのいいものでした。
数日後、フィオナは靴を直してもらうことに決めました。手紙には森の奥に靴屋があると書かれていたので、フィオナは森へと入っていきました。一時間ほど森の中を彷徨っていると、 少し整えられた小屋が見つかりました。
「きっとここのことね。」
フィオナは呼吸を整えてから、ドアを叩いて言いました。
「すみません、フィオナです。手紙の約束どおり靴を持ってきました。」
けれども、小屋からは何も返事がありません。
「間違いだったのかしら。……あの、フィオナです! 青い靴を作っていただいた者です! クリスさん、いらしゃいますか!」
フィオナは先ほどよりも一際大きな声を出しました。途端に、小屋の中からガタガタと物音が聞こえてきました。音はどんどんドアに近づき、やがて止まりました。ガチャリ、と鍵の開く音がして、中から青年が出てきました。
「あら、貴方は?」
フィオナは珍しいこともあるのだと驚いていました。なぜなら、その青年は以前の集会でフィオナの瞳と青い靴を褒めた人だったからです。
「フィオナさん、すみません。手紙を出したクリスといいます。貴女のことは貴女のお母様から伺っていました。ですから、その。ついあのような言葉をかけてしまったのです。」
「いいえ、そのことはもういいのです。それよりも、靴のことをお願いします。」
「わかりました。こちらへどうぞ。」
クリスはフィオナを部屋に招き入れました。クリスの部屋は、靴と思しきものや完成され磨かれた靴、靴を作る際に使うであろう道具など様々なものが散乱していました。クリスは頬をやや赤らめていました。
「仕事中だったものですから、あまり片付いていないんです。お見苦しいところ申し訳ない。」
「あっ、いえ。」
フィオナは慌てて顔の前で手を振りました。クリスはどこか安堵した様子でした。
「青い靴のことなんですが、足の先端部分を弱い状態のままお渡ししてしまったので、それを直したいのです。靴を見せていただいても?」
「靴ならこちらです。」
フィオナは肩に掛けていた鞄の中から青い靴を取り出し、クリスに手渡しました。
「ああ、やっぱり。では、今から一時間ほどかかりますので、後ろにある椅子で待っていてもらえますか。」
「わかりました。」
クリスはすぐさま靴の修繕に取りかかり始めました。フィオナは靴に向かって真剣に作業する青年の姿をじっと見ていました。しばらくの間、部屋にはクリスの作業する音だけがしていました。その音は、不思議とフィオナの心を落ち着かせ、穏やかな気持ちにさせました。
クリスは青い靴をフィオナに差し出しました。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
再びフィオナの元に戻ってきた青い靴はなんら変わりなく、美しいままでした。むしろ、より艶が出ているようでした。
「素敵……。」
フィオナは小さく声を零しました。クリスを見ると、優しい目でフィオナを見つめていました。フィオナは恥ずかしくなって顔を伏せました。
「あっ、すみません。見過ぎでしたね。」
「……。」
「実は、フィオナさんにはもう一つ言っておかなければならないことがあるんです。」
「何でしょう。」
「確かに靴の修繕はいつもしているんですが、今回ほど細かい修繕を普段はしていないんです。」
「それはどういう……?」
「その、つまり。」
クリスの顔を真っ赤でした。少し躊躇ったものの、フィオナの顔をしっかり見て言いました。
「貴女にもう一度会いたくて修繕の手紙を出したんです。貴女が好きです、フィオナさん。」
「まあ。」
フィオナは驚きましたが、なぜか嫌な気はしませんでした。むしろ、心が躍りだしそうな位でした。くすくす笑っていると、青年は焦り始めました。
「ああ、いや。こんな会ったばかりの人間に告白されては嫌だっただろう。でも、伝えたかったんだ。」
「ええ、わかったわ。」
「だからまずお友達からでも……えっ?」
「構わないわよ。クリス、これからよろしくね。」
「い、いいのかい? ありがとう、ありがとう……。」
クリスはフィオナの手を握り、ぶんぶんと勢いよく振りました。かと思えば、突然幼子のように泣き始めました。
「だ、大丈夫ですか?」
「すみません、あまりに嬉しくて。」
クリスは泣きながらも晴れやかな笑顔でした。フィオナはそれを見て、とても優しい気持ちになりました。そして、胸いっぱいに愛おしさが広がっていくのを感じていたのでした。
『海と姫』
あるところに、小さなお姫様がいました。お姫様はとても可愛らしく、人々から愛されていました。しかし、最近とても困っているのです。なぜなら、お姫様の大好きな海を、お母様が見せてくれないからです。
「海が見たいなあ。」
これは、お姫様の最近の口癖です。お姫様は海の波飛沫やさざめく音をいつだって聞いていたいのでした。お母様はお姫様のお願いを聞き入れてあげたいと思いましたが、お姫様のお城は木々のそばにあるため、海を持ってくることなど到底出来ないのでした。
「お母様、どうして家を海の近くに建てなかったの? そうすれば、いつでも海に行けるのに。」
「ごめんなさいね、私たちは木々のそばじゃないと暮らせないのよ。」
「どうして?」
「それは、あなたがもう少し大人になったらわかることよ。さあ、そろそろお勉強しましょうか。」
「うう……。」
お姫様はお勉強が嫌いなので、つい顔を顰めましたが、お母様に言われては従うほかないのでした。
ある朝、お姫様は父親に尋ねました。
「お父様は海に暮らしたいって思ったことないの?」
「う~ん。そこまで海に憧れたことはないかな。」
「本当にないの。」
「ないなあ。」
お父様は顎に手を当てて考え込んでいましたが、やはり答えは同じでした。
また別の日は、近くに住む住民に尋ねました。
「おじさんは、海が好き?」
「いいや、森の方が好きだな。仕事がしやすくなるからね。ああ、パイ食べるかい?」
住民はお姫様にパイを渡すと、再び仕事に戻ってしまいました。お姫様は貰ったパイを食べ、大人しくお城へと帰っていきました。
またある夜は、お母様の兄に尋ねました。
「叔父様は、今の仕事楽しい? 森よりも海が良いよね?」
「まあ、森は虫が出るしな。そういう意味では海の方が好きかもな。」
「やっぱり!」
お姫様は同志がいたことにとても喜びました。ですが、叔父様はこう続けました。
「でもさ、やっぱり昔から住んできた場所が一番好きかな。お前はどうだ?」
「え~~やだよ~~。」
「ははっ、まあお前の母さんも昔はそうだったよ。試しに聞いてごらんよ。」
「お母様が? 本当に?」
お姫様は疑っていました。お母様が今のお城を嫌がっていたなんてちっとも思えなかったからです。
「本当だって。じゃあな、お姫様。」
叔父様はお姫様に手を振ると、どこかへ行ってしまいました。お姫様はしばらく悩んだ後、近くのお友達の家へと駆けていきました。
その晩のことです。お姫様は気になっていたことを、直接お母様に聞いてみることにしました。
「ねえ、お母様。お母様が本当はこの場所が嫌だったって本当なの?」
お母様は目をぱちくりさせ、笑いながら言いました。
「ええ、本当よ。正しくは家の仕事が、だけれど。誰から聞いたの?」
「叔父様よ!」
「もう、お兄様ったら。いつも余計なこと喋るんだから。」
お母様はやれやれといった様子で肩を竦めました。お母様はお姫様を膝に乗せて、優しく語りかけました。
「いい? 確かに私は嫌だったのよ。でもある時すごく好きになったの。だから、今ここにいるの。」
「じゃあ、私にも好きになれる時が来るかな?」
お姫様はお母様を不安げに見上げました。お母様はお姫様の頭を撫でて言いました。
「わからないわ。でもね、あなたが今の場所より海の方が好きでも全然構わないのよ。」
「どうして? ずうっとここにいなくちゃ駄目なんじゃないの? お爺様はいて欲しいって言ってたよ。」
「いいえ。何が好きで嫌いかなんて、人それぞれちがうもの。あなたはあなたの道を往きなさい。あなた自身で選んで歩みなさい。それが、お母様の幸せよ。」
「お母様。」
「どうか健やかに育ってちょうだいね。約束よ。」
「ふふ、いいよ。」
お姫様は上機嫌で鼻歌交じりに髪を弄り始めました。お母様はお姫様の鼻歌を聞きながら呟きました。
「私たちの可愛い娘、メアリー。どうか、あなたの行く末が幸福に満ちたものでありますように。」
お話はこれでおしまいよ。……あら? そう、寝てしまったのね。
うう、もうこれ以上アップルパイ食べれないよ……ムニャムニャ……。
ふふ、夢の中でも食べてるのかしら。食いしん坊は誰に似たのかしら。今度おじさんに沢山作ってもらいましょうね。
コンコン ガチャッ
ああ、クリス。お帰りなさい。
メアリーは眠ってしまったのかな? 残念だなあ。
もう少し早ければ会えたのにね。
まったくだ。ところで、キャロル義兄さんがやたらと楽しそうにしていたんだけど、何かあったのかい?
そうよ、キャロルお兄様ったらメアリーに私の昔の話をしてたみたいなの。
はは、それは大変だね。
本当にね。でも、昔の話をするいい機会だったわ。貴方と会ったときを思い出したもの。
それは……僕が恥ずかしいやつだね。
ふふ、今度貴方からも聞かせてあげるといいわ。
まあ、いつかね。うん。
きっとメアリーは“どこかで聞いたことあるわ”って言いそうだけれどね。
ははは、確かに言いそうだ。
……私も眠くなってきたわ。おやすみなさい、クリス。
ああ、おやすみフィオナ。良い夢を。
それはどこかで聞いたような話 梨子ぴん @riko_pin
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