神代さんの短編「大学の美人後輩が繋ぎの彼氏として扱ってくるけどやめようと思う」

神代天音

大学の美人後輩が繋ぎの彼氏として扱ってくるけどやめようと思う

 日曜日の昼過ぎ、俺は家で元カノである井上静香とお茶をしていた。

 傍から見たらおかしな光景に見えるかもしれないが俺にとっては最早日常になっている。俺は彼女と今までに8回付き合い8回別れている、所謂繋ぎの彼氏扱いである。

 今となっては何故繋ぎの彼氏なんてやっていてのか分からないが、前回静香は「とてもいい人を見つけたからもう先輩は用済みです」なんて言ってたので今後もう付き合うことはないだろう。

 しかし、用済みと言われたが彼女との関係は完全には切れず今もこうして定期的に遊ぶ仲である。


「先輩、誠に言いにくいのですが先月キャンセルした映画の約束なんですけど。やっぱり行きたいなぁ、なんて」

「お前、バイト先の同僚と付き合ったからもう先輩とデートみたいな事はしませんって言ってただろ。映画に行きたいならその彼氏君と言ってこいよ」

「実は彼とは別れたんですよね」


 これもいつもの事である。彼女は男運が悪いのか本命と付き合ってもすぐに別れてくる。

「今回は短かったな」

「そうですか?一か月もったんだからいい方ですよ。それで何で別れたか知りたいですか?知りたいですよね?」

「聞きたくねぇよ。誰が好き好んで他人の別れ話なんて聞くかよ」

「ちょっと、うざそうにしないでくださいよ」

 毎回別れたら俺に何で別れたか語ってくる、他人の別れ話ほど面白くない話はない。しかも、彼女の場合いつも付き合ってみたら思っていたのと違ったである。


「今回別れた理由はですね、なんか年下みたいでかわいいって言ったじゃないですか?なんか変に空回りしているっていうか・・・デートすると自分が頑張らなくちゃ!って感じがきつくて。なんでも勝手に決めちゃって、私の意見も聞いてくれなくて、なんか俺頼れるだろ?感をだしていてですね。もし頼れる男と付き合いたかったらあなたと付き合ってませんって。振っちゃった」


 はい、今回もそうでした。分かりきっていたけどね。


「可哀そうだな・・・・相手が」

「なんで先輩は私の味方してくれないんですか?」

「こんな自分勝手な女と付き合ってしまったんだから可哀そうだろ。それでその彼氏君はどうなったんだ?お前と付き合った後悔で自殺とかしてないよな?」

「なんでそんなこと言うんですか、酷いですよ先輩。彼氏君は別れ話したとき涙ぐんで少し可哀そうだったけど。まぁ仕方ないですよね合わなかったんですから」


 頬を膨らませているが、ちっとも可愛くないぞ後輩よ、なんでこんな性格の奴がモテるのか分からない。

 やっぱり顔なのか?


「先輩くらいドライな方がいいんですかね?ということでまたお願いしますね?繋ぎの彼氏さん」

「え?嫌だけど」

 俺がそう言うと静香は信じられないものを見るような目で俺を見てきた。


「へ?いや?なんでですか?いつもは『はいはい』っていって付き合ってくれるじゃないですか」

「お前・・前回『とてもいい人を見つけたからもう先輩は用済みです』って言ってただろ。ようやく解放されたのに、なんでまた付き合わないといけないんだよ」

「解放って何ですか!あ、すねてるんですね?もう、先輩ったらかわいいんだから。今なら許してあげるので素直になってくださいね」


 なんだこいつ、一回痛い目に合わせないと将来とんでもない化け物になるぞ。

 ここはひとつあいつのためにも芝居を打つか。


「お前と別れた後に幼馴染と飲みに行ったんだがな。そこでなんかいい感じになっちゃって付き合うことになったんだよね」

 俺がそういうと静香は固まった。

「は?先輩が、私以外と付き合う?ちょっと待ってください。もう一度言ってもらえませんか?」

「いやだから、幼馴染と付き合うことになったって」

「なんでですか?先輩は私と付き合ってるんだから二股ですよ、二股」

 何を言っているのだろうかこいつは、先月別れたのに俺と付き合っているなどついに脳が腐ったのだろうか。

 そう思っていると彼女も現状を理解したのだろう、これで少しはまともな会話をできるだろう。

「確かに昨日までは別れた状態でしたよ?でもまた今日から付き合うんですから、実質二股ですよ」

 前言撤回、こいつは全然まともじゃない。

「なんで俺がまたお前と付き合わないといけないんだよ、普通に嫌だよ」

「なんでですか先輩?いつも先輩私が彼氏と別れるまで待っていてくれるじゃないですか」

 あぁ、これが原因か。どうやら俺はこいつを甘やかしすぎたようだ。責任をもってこいつをまともな人間にしないといけないな、めんどくさいけど。こいつは結構単純だから一度強いショックを与えたらどうにかなるだろう。


「お前と同じことをしてるだけだぞ、彼女と別れたら付き合ってやるよ」

「なんですかそれ。なんで先輩にそんなこと言われないといけないんですか。私と先輩じゃ立場が違うんですよ」

「何が立場だ、そんなもん俺は知らないね」

「っ!もういいです。先輩との関係も今日までです。彼女に振られても私知りませんから」

 そう言うと静香は勢いよく立ち上がり帰っていった。これで少しは自己中な所が治るといいが。









あの日から丁度二週間経った。あれから静香を一度も見ていない、多少はあの性格も治っただろうか?まぁ俺はあいつの保護者でもないし後は自分でどうにかして生きて行ってもらおう。

しかし幼馴染なんていないのにあんな嘘吐くもんじゃないな、あの後すごいむなしい気持ちになった。


家で寝転んでいるとインターホンが鳴った。今日だれか来る予定がないので不思議に思い確認しに行くと静香がいた。


「お前か・・・何しに来たんだ」

『先輩ですか?あの、申し訳ないんですけど。いれてもらえませんか?』


とりあえず俺は静香を入れることにした。静香は髪はぼさぼさで顔も少しやつれているように見えた。


「あの、こないだはごめんなさい・・・先輩は私のことならなんでも聞き入れてくれるって勝手に勘違いして、先輩に最低なことを言ってしまいました」


どうやら謝りに来たようだ。まともになったようで良かった。

「そのことならもういいぞ、お前のその腐った考え方を治すために多少意地悪しすぎたな、とも思っていたからな」

「それでもです・・・あの、この流れで言うのはおかしいと分かっているんですが、どうしても先輩に言いたいことがあるんです・・・」

そう言って静香は真剣な面持ちで語り始めた。


「先輩と別れたあとまた彼氏を作ろうとしたんです、だけど今まで私が男の人を

付き合ってはすぐに捨ててたって噂が流れてたんです。それで今まで私にでれでれしてた男の人たちはいなくなって、私の事を嫌っている女の子たちからいじめを受けるようになって・・・私が今まで好き放題したつけが回ってきたんです。」

「まぁ自業自得だな」

こいつはあまりにも人の心を弄びすぎた。逆に今までこの話が流れなかったのが不思議なくらいだ。

「・・そこは慰めるところですよ?だけど分かってます自業自得だって。それで、あの日先輩は私に更生して貰おうと思ってあんなこと言ったんですよね?後で先輩の親友さんに聞いたら先輩に幼馴染の女の子なんていないって言ってました」


おい、親友よ何故本当のことを言うんだ。俺は昔この手の嘘には口を合わせてくれと頼んだはずだぞ。


「それで、私が言うのはおこがましいって分かっています。だけどどうしても伝えたいんです。先輩、私は貴方の事が好きです、繋ぎの彼氏じゃなくて本当の彼氏になってください」


反省はしたようだが今ここですぐOKするとまた逆戻りするかもしれない、だから俺の答えは


「すまないが今のお前とは付き合えない」


「・・・そうですよね、今更私が先輩の彼女になんてなれませんよね」

「ちゃんとお前が反省して俺を惚れさせることが出来たら付き合ってやるよ」

一瞬何を言われたのか理解できなかったようだがすぐに理解したようで涙を流しながら抱き着いてきた。

「ちゃんと反省します、ちゃんと先輩を惚れさせます。だからそれまで待っていてくださいね」

「あぁ、待ってるからな」


静香が反省してしっかりとした人間になるかはまだ分からない、だけど俺は待ち続けようと思う。とっくの昔に彼女に惚れてしまっているから。

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神代さんの短編「大学の美人後輩が繋ぎの彼氏として扱ってくるけどやめようと思う」 神代天音 @tedemayuge

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