狩りゲー世界に転生して訓練場の教官をしているのはいいが、愛弟子が俺を溺愛していて巣立ってくれない件
にこん
第1話 片田舎の教官
俺が異世界に転生したと知るのにそう時間は要らなかった。
「これ、モンスターファンタジー。略してモンファンの世界じゃねぇか!」
ある日そうやって気付いた俺は誰に転生したのか気になった。
主人公か?と思ったりしたこともあるが、結局誰に転生したのかイマイチ分からなかったが
「まぁいいや。とりあえずギルド職員でも目指してみますか」
モンファンの世界に転生したはいいが俺が誰なのか分からなかったので、とりあえずギルド職員になることを決意した俺だったが、ギルド職員になって数年後。
『あ、君。転勤ね』
当時いたギルドのギルドマスターに言われて、ドのつく片田舎の辺境に飛ばされてきた。
辺境、ここはホッケ村と呼ばれる片田舎のクソ田舎だった。
家畜のモンスターが道を歩いて何かを運んだり、犬バアと呼ばれる婆さんがお供犬を販売してたり、そんな事が当たり前のように行われているクソ田舎。
「ってか寒いなぁ」
俺は飛ばされて初日でそう思った。
まぁ無理もないか、ここは雪山がすぐ近くにあるクソ寒い辺境の村なのだから。
とりあえず俺はそんな村でもギルドに向かった。
「今日からここに配属されることになりました、シードと申します、よろしくお願いします」
そこそこ賑わっているギルドの一室で俺は頭を下げて挨拶をした。
今日からここでどんな仕事をするんだろう、クソ田舎とはいえ俺の胸は高鳴っていた。
「あ、私ギルドマスターなんだけど、と」
ギルドマスターが俺の前に立った。
「はい」
「あー、シードだっけ?君、訓練場の教官やってくれないかな?」
「はい?」
なんで、教官?
「今このホッケ村で教官出来る人がいなくてさぁ、で」
彼女はギルドの中を見た。
賑わっているとは言え数人が騒いでるだけで、あまり繁盛しているとは言えない。
受付嬢も三人いるがガールズトークで盛り上がっているだけだ。
おまけにギルド経営のショップ店員も話に加わっている。
「この通り人もあんまりいなくてさ。正直人足りてるんだよね」
「は、はぁ。そうなのですか」
「だから、悪いんだけど教官お長いね」
そう言われて渡されたのはゴテゴテした装備の数々。
ゲーム内で最初に訪れることになる、訓練場の教官が身に付けていた装備だ。
それを見て長年の疑問がようやくわかった
(俺が転生したの教官だったのかよぉぉぉぉぉぉ?!!!!!)
ゲーム内では一回しか登場シーンがないモブだった。
◇
俺は渡された装備を持って訓練場に来た。
ガランとしていてホコリが積もっていて長年使われていないようなそんな感じだ。
そこで自分の人生がやばいんじゃないか、とか思う。
(いきなりこんな田舎に飛ばされて大丈夫か?いや、多分やばいんだろうけど)
ギルドマスターも言っていた。
ここは厄介者が厄祓いとして飛ばされる場所だと。
ギルドマスターを始め3人いた受付嬢も、アイテムを売っていた店員も全員がここに厄介払いされてきた、と言う。
「はみ出し者の集団じゃねぇかよ」
そう思ったがやることは変わらない。
「とりあえず掃除しますか、うし」
両手で頬をパンパンと叩いて気合を入れた俺はとりあえず訓練所の中の掃除をすることにした。
ある程度片付いた。
「武器の手入れもしてみるか」
なんて事を思いつつホコリ塗れの武器の手入れを始めて行く。
これからここに来るであろう見習いハンター達が使うであろうものだから。丁寧に手入れする。
(ゲーム内で来たの結局主人公の1人だったよな?)
とか思って俺は若干悲しくなりつつも拭きあげた。
(初日だ。とりあえず少し挨拶でもしとこうか。どうせ誰も来ないだろうしな今日は。ギルマスも挨拶しておけと言ってたし)
そう思って俺は手入れしていた武器を元に戻すと訓練所を後にする。
まずはギルドの外にいた犬バアに話しかける。
「よう、アンタが犬バアだっけ?」
「ん?すまんのう。耳が遠いんじゃわい。ギルドマスターのトムじゃったか?」
「今日からここに来た教官のシードだ。よろしく頼むよ」
「今日もいい天気じゃのぉ」
聞こえているのか分からない犬バアへの挨拶はこれで終わりだ。
次に少し歩いたところにいる村長の婆さんに話しかける。
「村長、今日からここで生活するシードだ。よろしく頼むよ」
「あー、お前さんがシードかい。話には聞いとるよ」
「そりゃ、良かったよ」
次に村長の前の切り株に立っていた犬に目をやる。
このゲームのマスコットのイヌートだ。
「私は誇り高きホッケ村の犬のイヌートだ。」
「あー、はいはい。よろしく頼むよ」
犬が当然のように話している。
まぁ気にしないでおこう。
そう思いながら色んなところで挨拶を済ませて
「もう主人公来てんのかな?」
とか思いつつ俺は訓練所から少し上がったところにある主人公の家に向かってみたが
「まだ来てないのね」
家の中から生活音も聞こえないし、そもそも入り口のところに看板が置かれていて、家の中に入れないようになっていた。
「さてと、帰るか」
やることも無いし訓練所に戻ることにした。
何はともあれこれから俺の新生活が始まるわけだが、
「……」
腕を組んで指をトントンとしていた。
誰も来ねぇ。
俺ここにいる意味なくね?
そう思った俺は訓練所の入り口に用がある奴はギルドに来いと書いた手紙を貼り付けてギルドに向かった。
ギルドマスターが話しかけてくる。
「シード教官?サボりは良くないな」
「誰も来ないのに俺いる意味ないじゃんよ?」
「まぁそれもそうだが。君の前の前任の教官も暇すぎて辞めていったからな。ひどいと数年単位で利用者がいないからな。ははは」
笑いながら口にするギルドマスター。
笑い事じゃねぇだろとか思いながら見ているとポツリと言葉を漏らした。
「あー、そう言えば、なんだが」
「ん?」
「ギルド所属の新米の冒険者がこれからシードのようにここに赴任してくるんだが」
このゲームで冒険者と呼ばれる人には2種類いる。
ギルドに所属して固定給をもらう人種と、完全フリーで出来高でもらう人種の2種類。
このゲームの主人公はギルドに所属する冒険者だから前者だ。
「そこの雪山を通ってくるはずなんだが、暇なら見に行ってやってはくれんか?あの雪山は吹雪が酷い。迷子になるやもしれんし」
「分かったよ」
俺はそう答えると
「あー、ほんとに寒いからこれを着て行きなさい」
そう言ってギルドマスターが渡してきたのはモコモコの装備だった。
「恩に着るよ」
「じゃあ、よろしくー」
ギルドの椅子に座ってぐでーっとするギルドマスターを見て俺はギルドを出ていった。
まじで暇らしいなここ。
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