ヤンデレパーティと記憶喪失のマスター

アンブレ

第1話 発端

ダンジョン 十階層

薄暗いダンジョンの大広間の中、俺たちは全長五メートルもある大型ケーブワームと対峙していた。

「ミラは肉体強化魔法を、マチルダは全力で奴の胴体を薙いでくれ。ソフィアは奴が口を開けた瞬間に合わせて火炎魔法をぶち込んでくれ‼」

「分かりました。」「任せろ。」「…分かった。」

俺の指示の順に三者三様の返答をして行動を始める。

ミラとソフィアは魔法の詠唱を始め、ミラは即座に魔法詠唱を完了させ肉体強化魔法を発動する。

身体強化によって脚力、腕力ともに強化されたマチルダは12時の方向でまだこちらに気付いていないワームに向かって大きく時計回りで接近し、大剣 —というよりは剣の形をした鉄塊で刃の部分はなまくらになりかけている— でワームの胴体部分を横一文字に薙ぐ、たとえ切れ味が多少落ちていたとしても遠心力によって生み出された力と大剣の重量から繰り出される一撃はワームにとって大ダメージなのは違いなかった。

その証拠にワームの胴体の肉を一直線に裂き、傷口からは黄色みを帯びた透明な液体が流れ出ている。

「ビギャャャャャャャャャ!!!」

 痛みによるものか怒りによるものか、ワームからは耳障りな咆哮があがる。

「ソフィア、今だ!」

 魔法詠唱を終わらせ魔法のチャージとホールドをしていたソフィアが俺の合図を聞き、待ってましたと言わんばかりに破顔すると、魔法のホールドを解除する。

 抑え込まれていた魔法弾は素早くなおかつ一直線に、鋭い歯がびっしりと生えたワームの口へと吸い込まれるように入る。そしてそうかと思えば次の瞬間にはその場で激しい火柱が立った。

いくらワームの弱点だとは言え、必要以上の威力だ。

「いくらなんでもやりすぎじゃないのか?」

 そうソフィアを咎める。

「そんなことないよ。ほら、焼け過ぎぐらいが丁度いいって言うでしょ?」

 そんな言葉を聞いたことは一度もない。

 体力や魔力に限りがある以上無駄な消費は抑えるに越したことはない。かといってケチって殺されたら元も子もないのだから難しいところだ。

 この様子じゃ反省しているとはとても思えないが、、、 

「もし味方に当たったりでもしたら怪我じゃ済まないんだぞ。細心の注意を払ってくれ。」

「ああ、全くだ。」

 大剣を背負ったマチルダが賛同する。

 そういえばマチルダは俺がこの隊の指揮役、マスターになる前にはソフィアの魔法を直撃しまくっていたんだったか。最近になってからそんなこともないため、ソフィアが遠慮なく高火力魔法を放つようになったのも考えものだ。

「というわけで、敵に見合った火力での対処で頼むよ。魔力消費だって大きいんだから。」

「分かった。」

「一応ミラも戦闘時でなければ極力即時回復は控えてね。」

「はい、分かりました。」

 俺の冒険者歴よりもずっと長く彼女たちは戦っているのだから無用な心配だろうが、注意するに越したことはないだろう。

 仲間たちへの注意も終わったところでこんがり焼きあがったワームに近寄り、一応の死亡確認をしていく。

「うん、これでしばらくはこの階層に採掘者さんの脅威になるようなモンスターは出ないかな。よしっ、ギルドに報告に行こうか。」

「これで鉱夫さんの採掘作業は復帰できるのでしょうか?」

 ミラが不安げな様子で質問する。

「大丈夫だと思うよ。もう数時間はここの巡回してるけどもう他にモンスターがいるとしたら」

 そう言おうとした時だった。

 カランカラン

 俺の背後から嫌な音がした。


 人の陰に潜んで油断した瞬間に襲い掛かる冒険者に似た見た目の魔物、シャドウ。そのモンスターと冒険者の識別は簡単にできる。

 人のような形で武具を扱うことができるが、名の表す通り奴らは影だ。人間のように色を持たない黒い存在なのだ。


 仲間たちも俺の背後の音に気付いたものの、皆俺から離れていたため気が付くのが遅れてしまい行動できなかったのだ。

 振り向きざまに腰の護身用のナイフを引き抜き攻撃を凌ごうとするが、遅かった。シャドウはもうすでに自身の色と同じ黒い剣を振りかぶっていた。

 間に合わないと判断し、回避しようともしたが、それすら行動に移すには遅すぎた。

 横払いされた剣は俺の側頭部に強い衝撃を与えた。剣が手入れされていない鈍器に近い状態だったのが幸いだったが、大した戦闘能力を持たない俺は吹っ飛ばされ、ダンジョンの壁面に激しく頭を打ち付けられて意識を失った。

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