野球帽
久石あまね
第1話 僕
高校一年の夏あたりだろうか。トイレで小便をしていると窓の外から誰かがこちらを見ているような気がした。ペニスや尻の穴まで観察されているような気がして僕は怖くなった。そしてそれと同時にやり場のないイライラに頭を支配された。
僕は誰かに監視されている。そう確信した。バスに乗るときも電車に乗るときも、監視されていると感じた。人の視線を感じるのだ。誰かが僕を監視しているのだ。エレベーターに一人で乗っているときも、誰かに見られている気がする。まるで寄生虫に脳みそが支配されたかのように。僕にプライバシーはなかった。僕の私生活は常に誰かに監視されていた。
いつの日かわからない。一人でバス停でバスを待っているときに声がした。
「今あなたはバスを待っています」
一人でバス停にいるはずなのに聴こえてきた声は僕の行動を解説していた。
バスが来た。バスに乗った。
「今あたなはバスに乗りました」
バスに乗った瞬間、また僕の行動を解説するような声がした。低い男の声だった。父親の声のような気もしたが、今は僕のそばに父親はいない。
いつの間にか僕は、常に監視されている感覚になった。
また、自分の生活や行動が全て低い男の声で解説された。男の声は常に頭の中にこだまし、僕を恐怖に陥らせた。
そんな生活が五年ほど続きいつの間にか僕は大学三年生になっていた。
そして当然だが僕は運命的な定めに依り、精神病院に通院していた。数種類の薬を呑み、体重は三十キロほど増え、背中は曲がった。年は二二歳だが、醜い男になってしまった。
そして僕は大学三年生の梅雨入りに駅で発狂した。
そして警察に通報された。
僕はパトカーに乗せられ警察署に連行された。
そして警察署からそのままかかっていた精神病棟に連れて行かれた。
僕は閉鎖病棟に入院することになった。
僕はそこで意外な出会いをすることになる。
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