ねこのてをかりたけっか

きつねのなにか

せっきゃくまかせろにゃん!

 俺の家は饅頭と和菓子屋だ。このご時世にも反して、かなり売れている人気の店だ。

 ただやはりコロナのせいもあって、クラスターは発生させていないが時折休みが出る。

 そして今回……。


「長谷川さん、森田さん、圭三おっちゃんが休み!? これじゃお店回るかどうか。うちの接客はすぐに変われるほど楽な仕事じゃないし。うーん」

「大将、あの子はどうなんです、あの黄色い服をまとっている」


 横須賀くんの言葉を聞いて、あいつを思い出す。


「いや、あいつはだめだ、あいつは猫だからな……」


「おはようございまーす、綾でーす。圭三おっちゃんから代わりに出てくれないかって言われたので来ました-」

「来てるっ!?」


 彼女は植野綾。高校1年からの縁で、俺と同じ22歳だが、大学生だ。俺は家業を継いで18からここにいる。


 彼女がなぜ猫かというと……。


「じゃあ接客……って、商品のなま」

「あーこれ美味しそうー。一口だけ、一口だけ」

「食べるなー! 話を聞けー!」


「この電灯のひも、気になりますね、シュッシュッ、シュッシュッ」

「今時電灯のひもでシャドーボクシングするやついるー!?」


 そう、行動がおこさ、猫なのだ。


 やっぱこいつじゃ無理じゃないかと思いつつ、こいつしか任せられない。

 圭三おっちゃんがいれば俺が接客にでられたんだが。仕方ない。


 開店前に特訓をする。ついでにでかでかと初心者マークが付いているウチの店特有の上着を着せる。下は和服だ。形式はどうでもいいので持ってきてくれ、とはのに持ってきていた。猫の感か?


 10時、開店の時間だ。すでに客は並んでいる。不安だ。不安を取り払うように俺は製品を作り続ける。


「おーい、綾なにかミス出してないか?」


 作業場から声を出す。


「今集中しているから黙ってて」

「へ」

「今集中してるの! はーい、ひよこ大福3つとイチゴ大福2つ、どっこいしょーいち餅にずんだ餅ですね。1780円です」


 凄い、猫が仕事してる。いや、しっかりとこなしている。


 人が一番集まるお昼の時間帯も、お客さんに軽く謝りながら事情を説明して捌いていた。


 三時、一番お客さんがいない頃。お茶と菓子を持って差し入れにいく。


「お疲れ、しかし凄い集中力だな」

「わらし、がんばた、もうむり」


 リアルにグウグウといびきをかく綾。


「おい、立ったまま寝るな! これじゃ今日はもう出来ないだろう、あいてるの俺の部屋しかないけど、寝とけよ」

「……ニヤリ」


 そういって2階の俺の部屋で休憩を取らせる。もうあとは商品は作らないし、綾がいなくても大丈夫だろう。飯も食べていってもらうか。


 午後6時に閉店。閉店が早いのは饅頭と和菓子だから足が速いため。最近の労働者は7時以降にもたくさんいるから7時に変えられん物かと思ってるが。


「おーい、綾。ご飯できたぞー食べていけよ」


 そうやって俺の部屋を開けると。


「はーこれが陸くんの匂い。たまらないにゃ……、いそいそ、ナニモシレイマセン」

「いやどう見ても俺の洋服の匂い嗅いでただろうが!」

「なんでだかわかるにゃ?」

「なんで……って」


 好きな人の匂いを嗅ぎたい、とか?

 胸の鼓動が早くなる。


「いやこれくっせーの! クンクン、モワァ。くっさー!」

「俺の純情を返せー!」

「純情って、好きな人の匂い嗅いでたとか?」

「き、き、嫌いな人の匂いは嗅がないだろ」


「ご名答! 好きな匂いがくっせーの! じゃあ大学卒業したらここにお嫁さん修行に来るから、よろしくぅ!」

「え、え、えー!?」


 猫の手を借りたらどこまでも振り回されたが、店は回ったし恋愛も少し進んだ気がする。これは猫神様に感謝するべきだな。ありがとうございます、猫神様。


「ちなみに私は犬が好きーゴールデンレトリバーとかさいこー」

「そこで犬ぅ!?」

「わんわんかわいいにゃん! お手!」

「わん。って俺のことかい!」

「かわいくてしょうがないにゃんーなでなで」


将来、尻に敷かれるのが決定している気がする。いや、尻尾で振り回されるというべきか。

胃薬、たくさん用意しないとな。


――めでたしめでたし?――

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