ワンデリングス プロローグ
菜月 夕
第1話
ワンデリングス プロローグ上
2011年。故郷を大震災で失った。
大停電と震災後のパニックで電話も通じずなんとか確保した車で渋滞を通り抜け、故郷の寒村に辿れ付けたのは5日も経ってからだった。
因習と過疎の村を嫌って母ひとりを置いて東京で暮らしていたもののパッとした事も起こせず、日々をなんとか過ごしていた。
こうして家に帰って来てみると、家は柱と屋根は残っているものの平屋の中身は全て津波と泥に流されてゴミの山の中だった。
母も未だ見つかっていない。
めぼしい遺品も残っていない。
それなのに鴨居の上の神棚だけはちょっと傾いているだけでそこまでは津波も押し寄せなかったのか無事だった。
歴史のある家で造りだけは良いせいかこうして母屋の形だけは残ったのだろう。
それにしても母はあんなに毎日お参りしていたのに、自分は無事で母は助けてくれなかったのかい。
思わず愚痴を言いながらそれでも傾いた神棚を少し治した。
コトっと音がした。なんだ?そう言えばたまに母は何か出し入れする事があったな。
台になるものを探して神棚の中をまさぐる。
イテっ。何かとがったものでもあったかな。
そのまま探ると首飾りのように紐に止められた勾玉が出てきた。
何かぼうっと光っていた。さの勾玉に触った途端、世界が押し寄せてきた。
匂いだ。世界が匂いと言う別の視界で押し寄せてきた。
母の匂いだ。ここに居てそしてあちらに……。
匂いのままそのあとを追うと地崩れの山があった。
そこらに転がってた棒きれで無我夢中に掘りだす。
そこに母の手があった。その泥だらけの手を握りしめながら俺は涙が止まらなかった。
気が付いたら救護隊員が俺の肩を抱き、母の遺体をくるんだ担架を持って俺をそこから連れ出していた。
共同葬儀をぼんやりこなし、俺は東京の安アパートに帰った。
ワンデクングス プロローグ下
オフィスビルの一角にある事務所、そこを丁度見通せるレンタルスペースが有ったのは行幸だった。
まあ、鼻が利くってのはこういう所にも役に立つものだ。
故郷には二度と帰らないかも知れない。今も冷たくなった泥だらけの母の手の感触だけが残っている。
あれからこの異能を色々検証した。
危機回避や役に立ちそうな物事に鼻が利くようになった。
驚いた事にスクラッチなどの当たりが決まっているものにも鼻が利いた。
お陰で小金を稼いで今までの会社を辞めて探偵業を始めた。
いゆ、ほんとに小金だけだよ。同じスクラッチの店でもっと当たりの良い匂いも有ったがそれには危険の匂いも強かった。
母は良く「力を持つ者ほどその力を隠さなければその力に振り回される。私たちの一族はそれを守ってこの里に住み着いた」と。思えばその力とはこの勾玉がもたらすナニカなのだろう。
そして俺はコレは何なのかを知りたいと探すために探偵業を始めた。
普段は失せモノや浮気調査とかだがそれは得意分野だった。
そして俺はその匂いを見つけた。
双眼鏡で覗いているとその事務所への出入りの特異さが良く判る。
海外通販の看板を上げているから外人が良く出入りするのは判る。
しかしその多くがここに入った後に別の扮装で出て行く。
俺はそこに忍び込むスキを嗅いでいた。
近くに何か起こる。俺はその時を待っていた。
ビル街にサイレンがなり響き黒煙が立ち込めてきた。
こっちだ。俺は事務所の裏手に回り奴らが使ってる隠し戸をこじ開けマスクで顔を隠し事務所に入り込む。事務所の方も煙りは入り込み、アラームが響いて騒然としている。
変装して私服や制服の男たちが入り乱れ、俺も目立たない。
これだ。男たちに入り交じりパソコンを片付けるふりをして持ち出し俺はそこを後にした。
どうやらあそこは某国のスパイ活動の一つの部署らしい。
第二次世界大戦後、俺の勾玉と同じものの情報を探っていたらしい。
それはオニと呼ばれるものだった。
奴らが日本の伝承や関係者から調べた事を纏めると平安時代に現れた荒ぶる神をオニと呼びその力を巫姑の力を込めた呪具で封じ込めながらやっと鎮めた。
ここの奴らも一度はその一つを手に入れ、某国に密輸して力をその手に握ろうとしたが日本穂を出たとたんに消えてしまったらしく、それからずっとその遺物たちの行方を捜してるらしい。
パソコンのバスワードも俺の鼻にかかればなんという事もない。
やつらが情報収集のためやっていた違法行為などもバッチリだ。
オニに関する情報は抜いて残りを公安にリークする。
これでこの事件は闇に消える。
俺には判る。オニの遺物は人には過ぎたるモノだ。
母がいつも神棚に祈っていたのも判る。残りを探して封印するのがきっと俺の一族の生き方だったのだ、
オニの封印具に関する報告書の抜粋
1. 平安時代に現れた邪神は神と認めない今神の巫姑によってオニと呼ばれ、オニが死んだ時にその力を封印した7つの遺物(ワンデリング)がある。
2. それに血を垂らして継承することによりその遺物に関係した力に目覚める。
3. その力は発現者により異なりショボいのから超能力的な物迄様々。
4. 遺物は惹き合いエンカエントし易いが、近づき過ぎるとお互いの能力を打ち消し合い、一人一つしか登録することが出来ず、二個目を登録すると一個目はワンデリング(ランダムなどこかの適合者の元へ去る)する。
5. 神棚や神社に奉納することで封印できる。
6. ホルダー(遺物所有者)が死ぬとワンデリングする。
遺物を奪う時は死ぬ前に奪い、新たに登録もしくは封印する必要がある。
7. 封印されたものも所有されたものでも保存されて別に置いてあるものは100年毎にワンデリングする。
8. 遺物は日本を出たらワンデリングする。
9. 手の遺物、足、声、目、耳、鼻、脳。これらはそれぞれの紋章を刻んだ勾玉として存在する。
我々は確かにこの遺物を手に入れ、その力を目にした。
しかし、本国に密輸して調べようとした時、それは忽然と消えた。
それ以来、我々はそれをワンデリングスと呼ぶことにした。
なんとしてもその力の秘密を探るために他の保持者や封印の地を探さなければならない。
ふむ、ワンデクングス(遺物)とホルダー(継承者)か。いいね。俺はこの力できっと……。
ワンデリングス プロローグ 菜月 夕 @kaicho_oba
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます