第14話:帰ってきた幼馴染み

——世界で一番萌えて燃える小説を書くことよ!


 黒羽先輩が放った言葉が今でも脳裏に焼きついて離れない。

 楽しいから小説を書く。面白いから小説を書く。

 先輩にとって、執筆活動は最強に面白いゲームか。


 では、俺にとって、面白い小説とは何か?


 退屈な授業を受けながら、俺は自問自答を繰り返した。

 それでもこれといった回答は出ず、放課後のチャイムが鳴り響くのであった。

 幽霊部員である俺は、部室へと向かうこともなく、校門を出ようとしていた。

 それなのに——。


「ったく……何の騒ぎだ。この生徒の多さは」


 校門前には、生徒たちが溢れ返っているのだ。

 まるで、池に餌を落とした瞬間に集まる鯉みたいに。


——うわぁ! 月姫カグヤさんだよ——

——生徒会長……う、美しすぎる——

——月姫カグヤさん……え、エグい…て、天使すぎる、アレは——


 生徒たちの黄色い歓声を集めながらも、こちらへ向かってきているようだ。

 人がごった返ししていたのに、その道が勝手に開いた。

 圧倒的なオーラを放たれ、開けるしかなかったと表現したほうが近いだろう。

 綺麗に真ん中が開いた道を歩いてきたのは、白銀の髪を持った少女だった。

 彼女は俺の顔を見るなり、手を振って駆け寄ってきた。


「あっ!久しぶりだね、カイト」


 快活そうな声で俺の名前を呼ぶのは白翼月姫ハクヨクカグヤ

 腰に当たるほど伸びた白銀の髪。丸くて大きい薄青色の瞳。

 日本人とは掛け離れたプロポーションを持つ可憐な少女。

 容姿だけでも“最強”と誇ってもいいのに。

 学力、スポーツ、芸術などの分野に関しても、先天的な才能を持ち、数々の賞を掻っ攫う天才だ。


「こっちに帰ってきてたんだな。知らなかったぜ、生徒会長様」


 白翼月姫ハクヨクカグヤは愛らしい見た目をしているが、生徒たちの頂点に君臨する生徒会長だ。俺たちの学校は少しだけ特殊で、立候補すれば、生徒の誰でも生徒会長になることができる。


 だから、月姫は一年生ながら、生徒会長に就任し、二年生になった今も継続中である。

 んで、生徒会特別推薦交換留学制度を用いて、彼女は異国の学校へと行っていたわけだ。


月姫カグヤでいいのになぁ〜。カイトは特別だから」

「ただの腐れ縁の幼馴染みってだけだろ?」

「幼馴染みならもっと違う言い方があると思うんだけどなぁ〜」


 ニッコリ笑顔を浮かべた月姫カグヤは両手を大きく開いて。


「ほら、カイト。抱きしめてよ、久々の再会なんだから」


 抱きしめるのが当然みたいな表情で見ないで欲しいんだが。

 ていうか、生徒たちの目が集まっているのに、気にしないのか?

 もう少し羞恥心というものを持って欲しいものだが。


「あ、あのなぁ〜」


 反応に困る俺を他所に。


月姫カグヤ会長! やっと見つけましたッ! こっちに来てください!」


 真面目そうな眼鏡女子が現れ、月姫の腕を掴んだ。

 名前は知らないが……確か、生徒会副会長だったはずだ。

 月姫がいない間に、生徒会をまとめていたはず。


「えっ……? い、今……ちょうどカイトに会ったばかりなのに」

「失礼ですが、そろそろ部活定例会が。各部活の部長が集まっております」

「あ、そっか……そっちも大切だね」


 月姫はペロリと舌を出して、口元を僅かに舐めた。

 それから引っ張られるような形で連れて行かれる。

 でも一度立ち止まり、白銀の髪を持つ少女は振り返った。

 ゆらりと揺れる髪は、雪のように白く、ガラスのように繊細だった。


「ねぇ、カイト。生徒会に入らない?」


 生徒会長が直々にお誘いしてくれる。

 それは大変喜ばしいことだと思う。

 月姫は確信した声で続けて。


「カイトなら絶対に活躍できると思うよ」


 だが、俺の回答は既に決まっていた。


「お断りだ。面倒な仕事はごめんだからな」


◇◆◇◆◇◆


 月姫カグヤと別れたあと、俺は自宅までの帰り道をとぼとぼ歩いていた。

 今までは自転車登校だったのだが、朝から志乃ちゃんが迎えに来るので、最近は徒歩だ。何気ない学校までの道のりだが、自転車と徒歩では感じるものが全然違う。


 椎名志乃と出会った桜が満開だった春とは違い、もう既に枯れ落ちているなとか。

 川が流れているのだが、そこには小魚が気持ちよさそうに泳いでるなとか。

 と、俺が季節の移り目をしみじみ思っていると。


 突然視界が真っ暗になった。

 誰かが俺の瞼を何かで押さえているようだ。

 温もりがあるということは……手だろうか?


「せーんぱい。だれ〜だ?」


 俺のことを先輩を呼ぶ人間はただ一人しかいない。


「志乃ちゃんだろ?」

「ファイナルアンサー?」

「ファイナルアンサー」

「正解ー!!」


 視界が明るくなったと同時にギュッと後ろから抱きしめられた。

 後ろは見えないけど、志乃ちゃんのニコニコ笑顔が容易に理解できる。

 顔を俺の背中に擦り合わせるのであった。


—————————————————————————————

作家から


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