第4話:待ち伏せは淑女の嗜みです
『わたしを海斗先輩の専属アシスタントにしてください!』
果たして、アレは本当に昨日の出来事だったのか。
実は幻覚や白昼夢を見ていたのではないのか。
そんなことを考えてしまう翌朝。
睡魔と戦いながら、俺が自宅を出たところ——。
「先輩! おはようございます!」
元気いっぱいな明るい声が聞こえてきた。
突然の挨拶に面食らってしまう。
外に出ていた足が家へと一歩戻ってしまう。
たじろいだ俺を見て、茶髪ショートの少女は口を尖らせて。
「先輩……? 学校に行きたくないからって、仮病はいけませんよ」
「そ、その……どうしてここにいるのかな? 椎名さん?」
「もうぉー。忘れてしまったんですか? わたしは海斗先輩の専属アシスタントですよ」
椎名志乃——学校で可愛いと評判の新入生。
彼女の笑顔ひとつで、男子は限界を突破できる。
という迷信があるらしく、部活のマネージャーに来てくれと勧誘されていた。
それにしても。
昨日の出来事は……全部、本当だったのか。夢じゃないんだよな……。
「先輩……? 学校をサボるのはいけませんよ」
「ええと。そのさ、椎名さん? たしかに言ったけどさ、ちょっとこれは……」
「アシスタントを侮ってもらっては困ります。わたしは先輩のサポートをするのがお仕事です! 登下校のサポートをするのは当たり前です!」
えっへんと胸を張って、彼女は自信満々に言うけれど。
「いやいや。ここまでされる筋合いはないというか……」
「もうぉー。何を言ってるんですかー。遠慮は要りませんよ!」
遠慮じゃないんだよ。
もうこっちとしては迷惑なんだよな、ちょっと。
「わたしは先輩の学校の世話、小説の世話。もちろん……下の世話まで、全てを熟すのが役目なんです!」
「やめてくれ。通行人から変な目で見られたから。言葉を慎め!」
「えー。それって、お前に今からいかがわしいことをするから。もう喋るな、俺の可愛い子猫ちゃんという意味ですか?」
「妄想が酷すぎるよ! ていうか、誰が言うかぁー!!」
こほん。
椎名志乃は咳払いをしたあと。
「なにはともあれ。今日から先輩の身近なお世話を担当することになりました」
「なりました、じゃないよね? 俺的には遠慮したいっていうか……」
先ほどまで明るかった彼女の瞳が一瞬にして闇色に染まってしまった。
「先輩はうそつきさんですか? 昨日アシスタントにしてあげると言ったのに、もう要らないからぽいっと捨てるんですか? 早くないですか? 何もわたし役に立ってないと思うんですけど……? わたしが不必要だから……? 嫌いになりましたか……? 先輩、センパイ、せんぱい、せんぱい……お、オシエテクダサイヨ、わたしの何がダメなのか?」
抑揚もなにもない淡々とした言葉が念仏のように唱えられる。
何、この子。
存在を否定したら、ダークサイドに落ちちゃうダメな子なのかなぁ?
只者とは思えないオーラを出してるから、フォローしとくか……。
「なーんてね、あははぁー。専属アシスタントが欲しい欲しいと前々から思っていたんだよねー。だからさ、椎名さんが俺の専属アシスタントになってくれて本当に嬉しかったんだよねー。俺は本当に幸せ者だよー。あぁーこんな可愛いアシスタントさんがいれば、元気百倍だよーあはははは」
「……先輩はわたしがいないと本当にダメな人です。それに、わたしも先輩がいないとダメダメな女の子。これって、もう共依存ですよねー。むふふふぅー」
御機嫌斜めだった彼女はスッカリと機嫌が元に戻った。
あー良かったと思う反面、相手がストーカーであることを思い出した。
どうやら俺は危険な女の子を専属アシスタントにしてしまったらしい。
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作家から
素朴な質問ですが……。
一話一話しっかりと読みたい?
それとも、今回みたいに軽くて読みやすいほうがいい?
1〜3話で導入までは全部書いたので……。
溺愛編が終わるまではこれぐらいゆったりペースでもいいかなと。
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