第11話 孤児院と書いて〇〇〇と読む 2
「…………聞こう……一体何があった……のですか?」
流石の隊長も、この少年の異様な存在感に完全に気圧されてしまっていた。高位貴族の子息であるのは疑いようがないうえに、そうでなくとも彼を相手にして10人程の衛兵で何が出来よう。それに少し辺りを見廻して、この少年が、横たわる二人の子供を護っていたのも理解出来たのだろう。もう戦意の欠片も感じられない。
「その前に、そこの子供達をこれ以上苦しめたくない。少し待っては貰えないだろうか?」
そう言いながらすたすたと歩きニコラウスとギュンターの側にしゃがむと二人の心臓の辺りに左右の手をそれぞれ当て、少年の魔力が高まって……
……え?……あっ!……まさか苦しめたくないってとどめを?……誰かあの子達を助けてくれ!……衛兵隊長!……目が合ったのに悲しそうな表情で首を横に振って……ああ!……神よご慈悲を!
次の瞬間。少年が暖かい白光を発し、二人までも暖かく包み込んだ。
……え?
「……んっ……」「……う……」
すると腫れあがった二人の顔が急速に奇麗に治っていく様子が見える。
「ほらちび猫!お前も来い……よく頑張って助けを呼んで来たな……偉いぞ」
見習いシスターに抱きかかえられていた筈のミレが、いつの間にやら光る少年に駆け寄って飛びついていた。
「ちび猫じゃない……ミレ」
助けを呼んだ?……未だに名乗りも何も出来ない私は只の空気だろ?……いや頑固なミレを逃がす為の口実だったのだろうな。何だか分らんが、あの子達もミレの可愛らしい顔も奇麗に戻ったから良いか。
「さて隊長殿。待って貰って済まなかった。俺の名はレイモンド・コルドバ。御覧の通り、孤児院の子供達がそこらに転がる奴らに殺されそうだったので止めに入ったんだが。問答無用で斬り掛かって来たので仕方なく対処した迄の事だ。」
コルドバ!……気品があるとは思ったが、何と領主の辺境伯の御子息か。
「……!!……失礼しました。私は衛兵第二分隊長のカミル・コスタと申します。それは災難でしたね。誠に恐縮ですが経緯についてもう少し詳しくお聞かせ願えますか?」
「……う~ん……最初は。……この背中に張り付いてるちび猫が……痛っ!……」
「ちび猫じゃない!……ミレ!」
「なあカミル殿。説明するの面倒だし背中も重いし……痛っ!……」
「重くない!」
「…………何か適当に処理して置いて貰えないか?」
「それは困ります。簡単でも構いませんからお願いします。」
「簡単?……どうせ罪人だし、死人に口無しだし……貴族らしき此奴らの家を処分できる簡単な理由……」
その時衛兵隊の後方から執事服の男が出て来た。
「何をしている衛兵ども!そのガキを捕らえろ!栄光なるグエス子爵様の嫡男ゲドウ様を
「領主の御子息に対して何たる不敬!」
「ああ、下衆だか外道だか知らないが非常に不愉快だ。この場合は不敬罪でいいのか?……それに俺を暗殺しようと襲撃した奴らの素性を調べる手間が省けたなカミル殿。」
「「へ?」」
それからレイモンド様に挨拶と感謝の言葉をやっと伝えられた。彼の背中から離れようとしないミレをおんぶした侭の何とも締まりのない挨拶だったが。
ミレが泣くので仕方なく孤児院まで子供達を送って貰う事になって、その道すがら談笑したが、先程感じた恐るべき気配は幻だったのかと思う程に年相応で優しい少年だった。あれ程の殺戮をした後だというのに。
それが何故かとても悲しく思えてしまった。良心を持ちながらも、常に戦いに身を置いて殺し続けなければ生きられない境遇に生まれた者が、神罰がその身に降りる前に、せめてもの束の間の日常を精一杯楽しんでいる様にしか見えなかったからだ。
この少年に何があったのか知りたいが無理だろう。私は只々祈る事しか出来ない。どうか神よ、この少年の心に、魂に、どうか憐れみを。
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