第4話 誇りある衛兵の仕事 2
……完全に意識を失ったか……息はしているし……魔力の枯渇以外に怪我はなさそうだ。此奴は一か月くらい前から毎朝公園に居る衛兵だな。それにしても驚いたな。
前世では新兵達にも無手の型を指導していたが、僅か一か月で覚えた者は記憶にない。ましてや見ていただけで覚える者なんぞは居なかった。後から公園に来たので全ては見れなかったが粗削りだが魔力の循環をしていたという事は、ほぼ正しく無手の型を行う事が出来た証拠だろう。
だが、何という才能だと感心しているばかりにはいられない。魔法のあるこの世界でこれから先、もし誰かに無手の型を教える場合には魔力の枯渇に気を配りながら見守らないと危険だと痛感した。
……暢気な顔で寝てるな……取り敢えずこのまま寝かせて置いて、じきに日が昇れば誰か来るだろうから、それから運ぶなり衛兵隊を呼んで来て貰うなりしよう。
「坊ちゃま!」
「うわっ!……え?……カーラ?」
……何の気配も無かったのに何時の間に背後に現れた?……倒れている衛兵を仇のように睨みつけてるし……何か勘違いしてそうだな。
「ここへ来たら此奴が気を失うところだったんで助けただけだよ?襲われて返り討ちにしたんじゃないからな?」
「はい、分ってます。坊ちゃまの無手の型を真似て魔力枯渇を起こしたんですよね?私は何度も気絶した坊ちゃまを介抱しているので処置には慣れております。」
「……う……本当に苦労ばかり掛けて済まなかったカーラ」
「とにかく坊ちゃまはお気になさらず、すぐに屋敷にお帰りになってください。実は今朝こんな事が起こるのを私は事前に予測しておりました。だから密かに坊ちゃまの後をつけさせて頂きました。後の事はこのカーラに全てお任せください。」
……………sideジョセフ
その日の夕方に詰所の寝室で目を覚ますと「起きたら本部に出頭せよ」と書置があったので直ぐさま城の側にある衛兵隊本部に向かった。
……クビだろうな……せっかく苦労して衛兵になれたのに……とんだ酔い醒ましの運動になってしまった。
とホールで待ちながらそう思っていた。しばらくすると後ろ手に縛られたマース・カイタラを引き立てた兵達を伴って、総隊長が現れた。
「来れたかジョセフ・ボーモン。体調が悪いだろうに急ぎ呼び出して済まなかったな。だが少し確認したい事があるので、幾つか質問に答えてくれたら帰って休んでいいぞ。」
「……は?……はい!!」
マース・カイタラ分隊長は、自分の気に入らない部下や、特に新人に対して理不尽な命令を繰り返し退職に追い込み。しかも上に提出する退職届を2~3か月後の日付に改ざんして、その間に支給された給料を自分の懐に入れていた。それだけではなく装備費や消耗品などの分隊の予算の一部も日常的に横領していた。まだ他にも調査中のものがあるらしい。
だがそれが何故急に発覚したのか?
体調不良にも関らず命令を遂行した俺は「変な踊り」を必死に覚えようとして気を失って辺境伯家に多大な迷惑を掛けてしまった。だがたまたま辺境伯家の使用人が昨夜の酒場に居合わせてマースが大声でその命令を出していたのを聞いており、事情の把握に俺の意識が戻るのを待つ必要が無かった。
”衛兵隊はいつもこんな下らない命令を出して遊んでいるのかふざけるな。マースという奴を徹底的に調べて処分しろ。だが仕方なく遂行した部下を罰するのは可哀そうだ。”
との概要の、辺境伯家の正式な文書を持った使用人が衛兵本部を訪れたので、マースを拘束して強制捜査を行った。
……と総隊長は説明してくれたんだが…………今更、酔い醒ましをしていたとは言えないよな。
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