僕のレンタカー物語

@motimot1

第1話謎の予約

「ハイ、ハイ!」

「洗車、洗車!」

今日も田村所長はアルバイト達へ休憩の頃合いを見計らって、声をかける。

今は夏休みなので午後から来ている大学生の石田君と、フリーターの三村君が、貸出カウンターの内側に座り、自動車の話をしているところだ。

8月のお盆前の午後、太陽は高く日差しが皮膚をさすように痛い、この夏真っ盛りの午後から洗車を3台続けて、事務所のエアコンで休んでいるところへ、所長のナイスなタイミングでの、洗車コール。

遊ばせず、サボらせず、人を動かすのがとても上手い、僕が思うにはきっと前世ではタヌキ商店の番頭さんで、切り盛りしていたと、思う。


アルバイト2人は、

「はぁーい」

不貞腐れた様子もなく、

「おしっ!」

外の暑さに対して気持ちを整えてから外に出ていった、ご苦労なことである。

今は、僕の方が誰かに ごくろうさん と言われたいくらいだ、レンタカーさんにとってお盆の期間は帰省や旅行で予約がいっぱいで、僕は配車表をチェックし、なんとかやりくりしている最中である。

この営業所では保有台数の半分以上が、実は一般以外に貸し出されている、保険で修理や、車検、点検時の代車、変わったところでは宿舎から工事現場への送迎用として建設会社への長期レンタル等である。

「田村所長!まずいですよ、ブルーバードが、代車から帰ってきそうもないですよ、」

「電話してみー」

「お盆迄には終わるって言ってたんだけどなぁー、またのびるのかなー」

電話すると案の定、修理が終わらずお盆休み明けまで伸びるらしい

「こっちの都合も知らないで、平気で伸ばすからなー」

そばで聞いていた所長はニャっと、笑いながら

「しょうがにぁいなぁー、いつもの事だ、他に何かあるだろー」

この時期、自転車操業状態で帰着した車をすぐに洗車して30分後には貸出なんて、いつものことである。

「車が全然有りません、どうしましょう、所長?」

「どれ!」

一声掛けて椅子をちょっと後ろに引き、椅子ごと クルッと回って、大きなお腹を僕の方へ向けると、配車表を覗き込んできた。

僕はお腹の出たタヌキが黒装束の忍者姿になっているのを想像して笑いをこらえていると、

「あらま!本当だ!」

他人事のように、おちゃらけている

「大丈夫、大丈夫、問題ありませーん、これ見ろよ」

配車表の別の車を指さしている

「これはクラウンですよ、2日後からお盆過ぎても、ずっと予定はいっているじゃーないですか」

所長は落ちこぼれの生徒に理解させようとするかのように、ゆっくりとした口調で

「いいかね、クラウンの予約先の "マエダタムキック" という会社はなぁ、俺なんだよ」

僕にはすぐに理解出来なかった田村所長が普段から自分で勝手にレンタカーを使用しているのは皆が知っていたし、マエダタムキックは取引先のマエダグループの一つと、思っていたから、ん……… 謎が解けた

マエダグループにはマエダエネルギーやらマエダデザインや、マエダなにがしと、マエダの名前がついた会社が5〜6社以上あり、"マエダタムキック" などと、ヘンテコな会社を作り上げ予約を入れていたのだ、その名前に気が付かなかった僕もうかつだった。

よりによってタムキックなどと、自分の名前を付けて、仲間内にさえ嘘をついて、それを自分一人で楽しんでいた、だましタヌキ曰く、高級セダンはどんな種類の車の代用になる、小型車を予約していて当日レンタカー屋さんの都合で同料金で高級セダンななったら、文句言うお客さんはいない。

「ニャハハハ、頭は生きているうちに使えよぉ」

後日ブルーバード予約の人はクラウンに繰り上がり24時間後の返却の後は、再びマエダタムキックで予約が入った、もちろん知っているのはタムキック所長と僕だけの秘密でその後、他のスタッフをあざむく楽しみとなった。

 







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