101 二度目の地球訪問
だが『
前線都市グランダの中央に位置する緩やかな丘の頂上――そこにレヴィーリア様の居城があった。前線都市なんて物騒な異名のある町に建つお城だけあって、きらびやかな要素の一切ない、なんとも無骨なお城である。
馬車を降り、そんな城の中へと入る。外見と同じように殺風景な細長い廊下を歩いていると、曲がり角を曲がったところで十歳くらいのメイド服姿の少女とばったり出会った。
「おかえりなさいませレヴィーリア様! ……って、おっ、お客様ですか!? ああっ、どうしようお迎えの準備が……!」
オロオロとするメイド少女にホリーが言う。
「落ち着きなさいコリン。レヴィーリア様の私室の方にお飲み物をご用意していただけますか」
「う、うん。わかったよ、お姉ちゃん」
「職務中はメイド長と呼びなさい」
「そうでした! そ、それでは失礼いたしますメイド長!」
ぺこりと頭を下げたコリンという少女は、くるりと背を向けるとぱたぱたと廊下を走っていく。その背中を見つめていたホリーが申し訳なさそうに頭を下げる。
「申し訳ございません。我が妹ながら、まだまだ未熟なものでして……」
どうやら今の女の子はホリーの妹らしい。護衛までできる腕利きメイドのホリーと違い、なんとも普通でほんわかとしたメイドさんである。メイド喫茶とかにいそうだね、行ったことないけど。
「わたくしが無理にメイドに召し抱えたばかりなのです。これから仕事を覚えていけば問題ありませんわ。さあさあ、それよりもわたくしのお部屋に向かいますわよ!」
ぐいぐいと伊勢崎さんの手を引っ張り、廊下を先へと進むレヴィーリア様。そうして俺たちはレヴィーリア様の私室へと案内され――
「――ごっ、ごゆっくりどうぞ!」
三人分の紅茶を置き、緊張した面持ちで声を上げるコリン。お茶請けに用意された白いお菓子はどうみてもホワイト○リータだ。自分が売った物をこんなところで見れるとはね。
「ありがとうコリン。ホリーにも伝えておりますが、誰ひとりこの部屋に通さないように。昼食も夕食も準備しなくて結構ですから」
伯爵令嬢であるお貴族様が、俺たち一般人と個室で長々と歓談。護衛でもあるホリーが眉をひそめそうなものだが、彼女から反対されることはなかった。
「わっ、わかりました! それでは失礼いたします!」
コリンはペコッと勢いよく頭を下げ、背後に控えるホリーと共に部屋から出ていった。それを見届けたレヴィーリア様は、ホワイト○リータの包み紙を開きながら口を開く。
「今回は夜まで人払いをしております。以前お邪魔したときはゆっくりできませんでしたが、今回は前より長い時間が取れますわ! うふふ、楽しみですわね!」
嬉々とした表情で語るレヴィーリア様。名目上は俺の手伝いであるはずなのに、早くも本音がダダ漏れである。
レヴィーリア様は白いお菓子をひょいっと口の中に入れると、すぐさま立ち上がり伊勢崎さんの手を掴んだ。
「さあ、お姉さま! さっそく参りましょう!」
「ちょっとレヴィ? 少しはゆっくりさせてください」
たしなめるように言う伊勢崎さん。俺も伊勢崎さんもまだ出されたお茶すら飲んでいない。せめてお貴族様御用達の紅茶くらいは味わっていきたいもんだよ。
そうして俺たちは、そわそわと肩を揺らすレヴィーリア様に無言のプレッシャーを感じながら紅茶とお菓子を腹に収め、地球へと転移したのであった。
◇◇◇
「――着きましたよ、レヴィーリア様」
「まあっ、こちらは夕方ですのね」
榛名荘マンションの玄関先で辺りを見渡し、窓から差し込む夕日にレヴィーリア様が声を上げる。そういえば前回は真っ暗の深夜だったので味気ないものだったけど――
「よろしければベランダから外の景色を眺めてみますか?」
「是非ともお願いいたしますわ!」
俺が部屋からベランダに続くガラス戸を開けると、伊勢崎さんに手伝ってもらいながらブーツを脱いだレヴィーリア様がベランダへと走り込み、手すりに乗りかかりながら目を大きく見開く。
「まあ……これがチキューの景色なのですね。わたくしの世界とはまるで違いますわね……!」
夕焼け空の下、俺からすればなんてこともない日本の日常の景色を珍しそうに見渡すレヴィーリア様。
「マツナガ様、あちらこちらで四角い箱がすごい速さで動いていますわ。あれは一体なんですの?」
「あれは自動車です。人を乗せて動く、あちらでいう馬車みたいなものですね」
「ジドーシャですか……馬に引かせなくても進むということは……さてはこれもカガクというヤツですわね?」
「ご明察です」
「だと思いましたわ!」
フフンと得意げに笑うレヴィーリア様。なかなか察しが良くて助かる。そういえば前に来たときにはあっという間にファ○コンで遊んでいたし、レヴィーリア様は順応能力が高そうである。
「あっ、ジドーシャがあの建物の前で停まりました。あの四角い建物はなんですの?」
「あれはコンビニですね。一日中休まず営業していて、いろんな商品を取り扱っている商店です」
「まあ……昼夜問わずですか? 従業員が体を壊してしまわないか心配になりますわね……。ではあの黄色い屋根の建物は?」
「ファミレスです。あちらも一日中営業しながらお客さんに食事を提供しています」
「ええぇ……、みなさん働きすぎではありませんか……? もしかして酷い領主による圧政が敷かれているのでしょうか――むむっ!?」
目を細めたレヴィーリア様が、とある建物を指差した。
「あの建物っ! この辺一帯と比べて格段に質の良い建物のように思えますわ! さてはあの建物こそが、民を
レヴィーリア様の指の先にあるのは……伊勢崎家のお屋敷だった。そりゃあ立派な建物だし目立つよね。俺だって周りから浮いてると思うし。
「そ、それは私の家です! 悪徳領主の屋敷ではありませんからっ! それにお店の方々は一日中営業してるとはいえ、交代で勤務していますからね?」
慌てて悪徳領主説を否定する伊勢崎さん。彼女はレヴィーリア様の肩をつかむと、くるりと反転させて部屋の方へと向かせた。
「もうっ、レヴィたら。あなたはおじさまのお手伝いをするために来たのでしょう? 楽しむのはそれを終わらせてからにしましょうね」
そんな伊勢崎さんの言葉に、レヴィーリア様はハッと息を呑んだ。
「そ、そうでしたわね! それではマツナガ様、さっそく始めましょう。魔道具をお出しになってくださいませ!」
お姫様らしからぬ腕まくりをしながら声を上げるレヴィーリア様。一応名目上の目的は覚えていたらしい。
こうして俺の自宅の模様替えが始まったのであった。
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