84 相原莉緒の煩悶

「それじゃセンパイ、また今度かけ直すんでー。よろよろー!」


 会社近くの道路沿い。ウチはスマホの通話を切ると――


「ぬはああああああああああぁぁぁぁーー……」


 その場にガクリとしゃがみ込んで頭を抱えた。


 うっかりうなり声まで上げたウチを、近くを通りがかったOLサンがなにコイツヤバッて顔でチラ見して去って行く。


 けど今はそんなん気にしていられないというか、マジでヤバかった……。


「もうちょいでセンパイにフラれるところだったじゃん……」


 センパイに『悪いけど――』って言われた瞬間、もう全身の毛穴という毛穴から汗が出まくったわ。フィンランドのサウナでだって、こんなに汗を吹き出したことはなかったってマジ。


 ワンチャン話の流れでイケるんじゃね? と思ってLANEのノリで軽く告白してみたんだけど、見事に失敗したわ。


 くそー! そんな気はしてたけど、やっぱセンパイはガードが固い。固すぎ晋作だわ。今になって思えば、ウチみたいなかわいい子を前にしてもワリと塩だったし。


 ……てか、そういやセンパイ、ウチのことかわいいって言ってくれたなウヘヘ。


 と、ニヤけそうになる自分の顔をキリッと引き締める。今はそれよりもガード固すぎセンパイの件だ。


 センパイ枯れてる説もあるにはあるけど、ウチとしてはネタでは言ったけどマジで枯れてるワケじゃないと思うんだよね。


 だっていつだったか、センパイが同期のパイセンにキャバに誘われてホイホイついて行ったのを見たことあるし。だから枯れてたりとか、オンナにキョーミないとかじゃないはず。


 したらウチの告白だって、もうちょい悩むそぶりがあってもよかったのになー。まあネタっぽくしたウチも悪いけど。


 そうなるとやっぱ、あの神JKと付き合ってるとか……?


 ……いやいや、それはないか。


 見た目的に、その辺のリーマンセンパイと神JKで釣り合う釣り合わないって話もあるかもしれんけど、そんなのは好きピ同士ならどうでもいいことで。


 んなことよりもセンパイが付き合ってないと言ったから、付き合ってないんだろう。センパイはそんなしょーもないウソついたりしないからな。そんくらいは今までのセンパイを見てればウチにだってわかるし。


 あーこうなってくるともうなにもワカラン。恋愛とかぜんぜんワカラン。こんなことならギャルやってたときに、一回くらいオトコと付き合っといたほうがよかったんかね?


 ……いや、ウチに言い寄ってくるオトコって、なんでか知らんけどみんなグイグイきてなんか怖かったんだよなー。だからそれはナイか。


 やっぱセンパイくらい塩の方がウチには合ってるんだろうな。気づいたのはつい最近だけど。


 ……はあ、もうコレ以上センパイのこと考えたって答えはでねーわ。


 とりまウチの事情に付き合ってカレシ役をしてくれるってことは、嫌われてはないってことっしょ。


 そーゆーことなら、まだウチにはチャンスがあるってことだ。今日のところは会社を辞めたセンパイと、これからも会えるってことだけでも良かったってことにしとこ。


 そうと決まれば、ジーチャンに連絡して予定を組まないとだな。


 ジーチャンにウソのカレシを紹介することになるのは、ちょっと悪い気もするけど……まあそのうちマジのカレシになってもらうつもりだから問題ない。


 それよりもセンパイが無職だって紹介する方がヤベー気がする。親戚の仕事の手伝いっていつからやるんだろね。その辺も後でセンパイに相談しないとな……。


 と、考えてたところでブルッとスマホが震えた。一瞬センパイかと思ったけれど、スマホに表示されたのはカチョーの名前――ヤバッ!


 いつの間にかこんな時間じゃん! そーいやウチはカチョーにお使い頼まれて、それで会社に戻ってる途中だった。こんなところでしゃがみ込んでる場合じゃなかったわ!


 ウチは慌ててその場から立ち上がると、陸上部だったJK時代を思わせる華麗なフォームで会社に向かって猛ダッシュで走りだしたのだった。

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