65 「そんな、ひどい……。

 シンと耳が痛いほどの静寂が辺りを包み込む中、キョトンとした表情のレヴィーリア様が再び口を開く。


「えっと、お二人方にご協力をお願――」


「「無理」」


 食い気味に再びハモる俺と伊勢崎さん。


「――え? 無理? ウソですわよね!?」


「いやあ、申し訳ない」

「本当です」


 今度は二人で口々に答えると、レヴィーリア様は口元をにんまりとさせながらポンと手を叩いた。


「ハハーン……。お姉さまったら、わたくしをからかっておいでなのですね? 久々の再会でわたくしと遊びたいという気持ちは、まあわからなくもないのですけど、そういう冗談は後にしましょう? ね?」


「こんなことを冗談で言うわけがないでしょう?」


 ハアとため息をつきながら答える伊勢崎さん。レヴィーリア様はそれを愕然とした表情で見つめると、ついに伊勢崎さんにすがりついた。


「ええっ、そんなあ……。かわいい妹がお願いしてるんですよ? そんなイジワル言わないで? ねっ、お姉さま?」


 このまま「はい」と言うまで延々と続きそう。そんなことを考えていると、


「レヴィ……あなたももう成人しているんだから、甘えるのはよしなさい。旦那様もお困りになるでしょう?」


 キッパリとそう言って、伊勢崎さんが俺に顔を向けた。そうだね、ここはしっかり言っておかないと。


「レヴィーリア様、お貴族様のお家騒動は俺たちには荷が重いですよ。それに俺たちは別世界の人間ですから、そこまで巻き込まれたくはないというのが本音です」


 正直に言った上にカミングアウトもしてやったぞ。当然のようにレヴィーリア様は首を傾げる。


「別世界? 貴族と民とで住む世界が違うということですか? もちろんそれは重々承知の上で――」


 すると伊勢崎さんがレヴィーリア様の肩にポンと手を乗せて、ゆっくりと噛みしめるように話した。


「レヴィ……。私たちは、この世界の人間ではないのです」


「え? ……それってもしかして、お姉さまが昔たまに言っていたアレですか?」


 どうやらレヴィーリア様にも言ったことがあるらしい。当時は誰も信じてくれなかったらしいけど。


「そう、それです。そして私はこの世界で殺されたことで元の世界に戻れたんです。そして旦那様と知り合ったの♪」


 顔をほころばせながら俺の腕に抱きついてくる伊勢崎さん。俺はそんな伊勢崎さんの腕をほどきつつレヴィーリア様に話しかける。


「この際なので言いますけど、実は夫婦というのも偽装なんです。この方がいろいろと都合がいいと、彼女から教えてもらいまして」


「むう……。それは別に言わなくてもいいですのに」


 口を膨らませながらつぶやく伊勢崎さん。でももう伊勢崎さんのことはバレているのだ。レヴィーリア様にはいっそすべてをカミングアウトして、しっかり納得してもらったほうがよさそうだからね。


 それにこれまでずっと隠していただけに、すごく爽快な気分だよ。今なら刑事ドラマで犯行をベラベラしゃべる犯人の気持ちが理解できるかもしれない。


「お二人が別世界の人間で? マツナガ様が旦那様じゃなくて? えぇぇ……。なんかだかもう……話がさっぱりわかりませんわ……」


 混乱したように頭を抱えてうなるレヴィーリア様。それも仕方あるまい。


「わかりました。そういうことなら詳しく説明しましょう」


 そう言うと、俺はどこかウキウキした気持ちでレヴィーリア様を断崖絶壁の崖……ではなく馬車へと誘ったのだった。

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