63 手の内
動けるまでに回復した冒険者たちが、おっかなびっくりにアースドラゴンに近づきながらざわついている。
「すげえ……」「甲羅がパックリと割れてるぜ。どうやったらこんなことできるんだよ」「ていうか俺、なんで生きてるんだ?」「知るかよ。俺だって知りてえよ……」
そして同じようにアースドラゴンを見上げていたリーダーが振り返り、申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「すまねえマツナガさん、疑って悪かったな……。それに護衛する側の俺たちが助けられるなんて、恥ずかしいってもんじゃねえ。なんて詫びればいいのか……」
「いやいや、たまたま倒せただけなんで気にしないでください」
「なに言ってんだ。たまたまでやれる魔物じゃないだろ……」
呆れた顔をしながらアースドラゴンを再び眺めるリーダー。だけど本当にたまたまなんだよね。
とにかく俺の時空魔法と相性がよかったのだ。
仮にこれが火を吐くドラゴンだったりしたら、俺はなにもできずに死んでいただろう。異空壁は小さい異空間の集合体なので隙間があり、空気や熱が遮断できないのだから。
なのでそこまで
ちなみに伊勢崎さんは逆に誇らしげに胸を張っているんだけどね。こう言っちゃあなんだけど、アレがドヤ顔だろう。
そういうことで、しきりに謝り続けるリーダーを俺がなだめていると――
「うおおおお! マツナガさん、すげええええ!」
叫びながら走ってきたのはギータだ。隣には心配そうに彼を見つめながらシリルもついてきている。
倒れていたときのギータは特に状態が酷く、手遅れでもおかしくはないと思っていたのだけれど、今は元気そのものといった様子。
全速力で俺のそばまで駆け寄ると、興奮で顔を真っ赤にしながらアースドラゴンを指差す。
「コレ、マツナガさんがやったんだって!? すげえ! マジですげえよ! なあ、一体どうやったんだ!?」
前のめりに俺に話しかけてくるギータ。年の割に大人びたところもあったけれど、今は少年のように瞳を輝かせていてちょっと微笑ましい。
「ああ、それは――」
と言いかけたところで、リーダーがため息まじりで声を上げた。
「なに言ってんだギータ。そんなのおいそれと教えてくれるわけねえだろ。なにより手の内を探るのは冒険者の仁義に反する。それくらいは知ってるだろう?」
そういうものなのか。ちらっと伊勢崎さんを見ると、彼女も小さく頷く。まあたしかに手の内は知られないに越したことはないか。
リーダーの言葉にギータはバツが悪そうに頭をボリボリとかいた。
「あー……そういやそうだった。悪かったな、マツナガさん。ちょっと興奮しすぎちまったみたいだよ。忘れてくれ」
「ああ、気にしないでいいよ」
しれっと答える俺。
するとギータが苦笑いを浮かべながら、身体の様子を確認するようにグルグルと腕を回した。
「っていうか、そもそも俺は死にかけてたはずなんだけど、体がどこも痛くねえし、他の連中もケガひとつしてねえみたいなんだよな。いまさら不思議なことがひとつ増えても気にもならねえかも」
たしかにそっちも説明していないままだ。まあ……これに関しては元から説明するつもりはないんだけど。
するとこれまで黙っていたホリーが口を開く。
「今回の依頼にはおそらく守秘義務が課せられることになると思います。あなたたちが知ることは少ないほうがいいでしょう」
その言葉を聞いて、リーダーが苦虫を噛み潰したような顔で遠くの馬車を見つめた。
「ああ、たしかにそのとおりだな……」
そういえば、これまで必死だったので考えるのは後回しにしてきたけれど、今回の襲撃は偶然だったのか、それとも必然だったのか。
もちろんこちらも護衛を雇っているということは、賊に狙われることもあるというのを想定していたはず。しかし、それにしても賊の戦力が異常だった。
アースドラゴンを召喚するような人物が、ケチな賊なんてやるものだろうか。最初からレヴィーリア様を狙い、確実に葬るために集められたような戦力にしか思えない。
そうして誰しもが無言で馬車を見つめている中、ゆっくりとその扉が開かれた。そして騎士に手を借りながらレヴィーリア様が外に降りてきたのだった。
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