61 治癒無双
伊勢崎さんがレヴィーリア様が落っこちないように丁寧に座席に横たわらせ、『
レヴィーリア様は完全に眠りに落ちたようだ。
伊勢崎さんが言うには『
そうして安らかな表情で眠っているレヴィーリア様は金髪縦ロールと上品な衣服も相まって、まるで美しいアンティークドールのよう。
どこか現実味のないその姿に、なんとなく目を奪われていると――「ウオッホン!」とやたら大きな咳が聞こえた。
ハッとして音の発生源の方にいた伊勢崎さんを見たのだが、彼女は俺を見ておすまし顔でコテンと首を傾げるのみ。
……うん、そうだよな。伊勢崎さんがあんなおっさんみたいな咳をするわけがないよな。
おそらく寝ている女子をまじまじと見つめるのはよくないという俺の良心が、幻聴を発生させたのだろう。
そう納得した俺は伊勢崎さんからも視線を外し、そそくさと窓から外を眺める。
すると馬車の外では、賊の最後の一人を騎士が切り捨てたところだった。どうやら襲撃は完全に終わったようだ。
だとすればやるべきことはまだある。
俺は騎士にレヴィーリア様を任せると、伊勢崎さんを連れて急いで冒険者たちの元へと向かった。
◇◇◇
傷つき、地面に倒れている冒険者たち。苦しそうにうめき声を漏らしながらうずくまる人がいれば、まったく身動きしない人もいる。
もしかしたら手遅れの人だっているのかもしれない。しかし酷い状態だったレヴィーリア様も回復したのだ。とにかくやってみないことには始まらない。
「伊勢崎さん――」
「わかっておりますわ、おじさま。ですが……一刻を争う事態だと思います。おじさまの魔力をかなりお使いしてしまうことになるのですけれど……」
「大丈夫だよ。俺の魔力でよければいくらでも使って」
そう言って手を差し出す俺に、伊勢崎さんはコクリと頷き手を握りしめた。
「では……『
伊勢崎さんが言葉を発すると、伊勢崎さんを中心に金色の粒子がブワッとあたり一面に広がった。
金色の光は倒れた冒険者たちにふわりと絡まっていき、そして全身を包み込んでいく。
その途端、苦悶の表情を浮かべていた冒険者の顔が安らかに変わり、ピクリとも動かなかった冒険者の胸が上下する様子も見て取れた。
「すごい……」
思わず声を漏らす俺。これまで見てきた魔法の中でも、これは特に大規模なものだろう。
伊勢崎さんの表情はいつも以上に真剣で、その端正な顔にはいくつもの汗が浮かんでいた。
――やがて光が収まり、伊勢崎さんは流れる汗を指でそっと拭う。
「手応えあり――ですわ。全員助かると思います」
確信したようにつぶやく伊勢崎さん。さすがは元大聖女だ。頼もしさが半端ないよ。
全員が助かった。その事実に俺はフーッと安堵の息を吐く。だが今度はそれを見て、伊勢崎さんが心配そうに眉を下げた。
「おじさま、やはりこれだけの魔力ですし、お体が……」
「あ、いや――」
しかし俺がすべてを言い終わる前に、伊勢崎さんが意を決したように声を上げた。
「そ、そういうことでしたら、ぜひとも私を使ってくださいませ! 私に寄りかかってくだされば、少しはお体のご負担も減りますわ! さあどうぞ! 全身を押し付けるように! ぐいーっと! さあさあ!」
ばっちこいとばかりに両手を広げる伊勢崎さん。
「いやいや、ぜんぜん大丈夫だよ? そんなに魔力は吸われた気はしないし、ホッとして息を吐いただけだから」
「えぇ……。そうなのですか……」
伊勢崎さんがどこか残念そうに肩を落とす。気持ちは本当にありがたいんだけどね。
そうして気落ちした様子の伊勢崎さんに、なんて言葉をかけようかと考えていると、周辺の冒険者たちが意識を取り戻したらしく、もぞもぞと動き始めた。
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