43 相原莉緒とショッピングモール
「……ん? あれ先輩じゃん。こんなところで珍しっ」
今日も定時に速攻で退社し、コスメを買いに寄ったショッピングモール。そこでウチはつい先日会社を辞めた松永先輩を発見してしまった。
昨日、痛いナンパに引っかかったウチを助けてくれた先輩。
まあ……助けたっつっても、なんか上の人が物を落としてくれたお陰だし、先輩がやったことはといえば、手ェ引っ張って一緒に逃げただけなんだけどね。
それでも先輩に手を掴まれた瞬間、心の底から安心したのを覚えてる、ウヒヒヒ。
自分でもワリと難ありの社会人だと思うウチを、根気よく世話してくれた先輩。
最初の頃はウチってかわいいし身体目当てじゃね? なんて思ってたけど、ぜんぜんそんなことないし。むしろまだアラサーなのに全然枯れてるみたいで草。
そんなところも気になってたんだけど、それが昨日の事件でなんかこう……きゅんときちゃったんだよね。
でも先輩は会社を辞めたし、もう接点がないような状況。昨日の飲みでいつもみたいに先輩からかってないで、もっとグイグイ攻めるべきだったよなあ――なんて後悔していた矢先に先輩を発見。
これはもう運命っしょ。このチャンスを逃すわけにはいかねーってマジ。
「おーい、セン――」
手を振りながら近づこうとしたそのとき、ウチよりも先に先輩に駆け寄っていく女の子に気づいた。
えっ、なにあの子? ヤバ! めっちゃかわいいんですけど! 髪キレイ! 足なが! 腰ほっそ! でも胸でっっっっか!!
あまりの神々しさに思わず隠れてしまったウチは、柱の陰からそのコを観察することにした。
先輩に微笑みかけている、この世の美をすべて詰め込みましたわ~って女の子。見ているだけで目がつぶれそうなんですけど。
ブレザーを着ているしJKっぽい。てかウチがいた学園と同じ制服じゃん。後輩か、マジか。
周りのみんなも遠巻きにあの娘に見とれてるし、なんかヤバすぎでしょ。前世でどんな善行を積んだらあんな遺伝子ガチャ引けんのさ。
そしてそんな超SSR級の美少女JKと普通に話をしている先輩。普通すぎて逆に笑える。
……んで結局、あの娘と先輩の関係って一体なんなんだろ?
普通の先輩とあの超絶美少女が関わり合うって状況がマジわからん。
娘なわけないし、兄妹というには歳が離れてるよなー。なによりフツメンの先輩と遺伝子が違いすぎ。ギリギリ許容できるのは親戚とか? なんか退職した後に親戚の家業手伝うって言ってたし。
……くぅ~、めっちゃ気になる!
突撃して先輩に聞いたら早いけど、あの二人の間に割って入るの、
うん。こうなったらアレだ、後をつけるしかないっしょ!
こう見えてもウチはJK時代、友達に相談されて友達のカレを尾行して浮気現場を掴んだこともある。
めっちゃ写真撮ったりして証拠を押さえたのに、結局あの後ヨリを戻したみたいで、ウチの頑張りはなんだったん~ってなったけど――って話がそれた。とにかくウチは尾行は得意。超得意。
JKの荷物を代わりに持ってあげ、ショッピングモールを出る先輩とJK。その二人に見つからないように、ウチはその背中をコソコソと追いかけることにした。
◇◇◇
二人は話をしながら、ゆっくりと町中を歩いている。
あのJKの美少女っぷりに、道行く男どころか女までみーんな振り返ってるけど、先輩がそれを気にする様子はない。
……まあ先輩って結構な鈍感だからなあ。普通ウチみたいなかわいい女子が馴れ馴れしくしたらちょっとくらい勘違いしてもいいのに、そういうのまったくなかったし。
などと考えているうちに、どんどん二人は
……えっ!? ここって昨日ウチが連れ込まれた路地じゃん! ってかその先にあるのって……!
もしかして二人はそういう!? 相手はJKよ? それはいかん、それはいかんですぞ先輩!
先輩が逮捕されるのだけは阻止しなくては。ウチはもう見つかってもいいやと猛ダッシュで駆け寄り、路地に突入して――
「先輩! それはアッカーン! ……ってあれ?」
路地には二人の姿はなく、そのままラブホも見に行ったけど、そこに入った様子もなかった。
は? 先輩とJKが消えた? どういうこと? もしかしてさっきまでのはウチが先輩を好きすぎて見た幻覚だったとか? いやいやそれはないっしょ。そこまで好きじゃないし……たぶん。
別の脇道に行ったのを、ウチが勘違いしたのかしらん。うーん、わからん。
ウチはしばらく路地で立ち尽くし――そしてさっさと引き返すことにした。
……まっ、いいか。こんなところで偶然出会うくらいだし、またなんか会える気がする。
ウチは路地から抜け出すと、スマホで時間をチェックした。あーあ、先輩を見かけたせいでだいぶ時間をロスしたよ。
とりあえずショッピングモールに戻ってサクッとコスメを買って、それからジーチャンの見舞いに行って、夜は城之内のパーティにも顔出さないといけないし……。
傍系だから行かなくていいと思うんだけど、行かないとママがうるさいしなー。ウチってマジ忙しすぎるっしょ。
はー、マジでダルー。先輩も会社辞めたし、やっぱウチも会社辞めちゃおうかなー。辞めて無理やり先輩の親戚の仕事を手伝ったりとかできんかなー。
そんなことを考えながら、ウチはショッピングモールへの道のりをとぼとぼと歩いたのだった。
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