26 二度目の取引
ライター高評価の流れに乗って、俺が次に出したのはボールペン。
先日ここで買取に関する契約を取り交わした際には羽ペンが使われていたし、ボールペンの需要はありそうだと思ったのだ。
「このペンの中にはインクが入ってまして、わざわざインクにつけなくても字が書けます。それだけでも便利なのですが、書き心地もなかなかのものなんですよ。どうぞお試しください」
さっそくライアスはボールペンで紙の切れ端に何度も線を引くと、感心したように大きく頷いた。
「おおおっ、これはなんと便利な……。まさに新時代のペンでございますな! もちろん購入させていただきます! こちらはいかほどお持ちで……?」
「はい、二十本あります。すべてお売りしますよ」
「おお、ありがとうございます!」
大喜びで満面の笑みを浮かべるライアスだが、実際のところ二十本というのはかなり少ないと思う。
しかし俺はレイマール商会と商売するにあたり、少数販売の方針に決めていた。
たくさん売れば利益も多いだろうが、いずれひとつあたりの単価は下がってくるだろうし、面倒ごとも増えてくる。
なにより日本で仕入れるのも大変だ。今回百均ショップで爆買いしたときも、レジで店員さんは顔に出さないようにしていたけれど、明らかに引いていたもんな。
そういうことで少数販売のレアっぽさを出してお金持ちにターゲットを絞り、高級路線でやっていこう思うのだ。
そうして順調に商談が進んでいき、前回も評判のよかったウイスキーやチョコレートといった商品を取り出している最中だった。
扉がノックされ、ライアスが席を立ち扉を開けると、そこには女性従業員の姿が。ライアスがやや不機嫌そうに話しかける。
「なにか用か? 今はマツナガ様と商談中で――」
「それが、あの……」
こそこそと耳打ちをする女性従業員。すぐにライアスの顔が驚愕に染まる。
「あ、あの、申し訳ございませんマツナガ様。しばらくお待ちいただいても?」
「ええ、もちろん。私のことは気にせずごゆっくり」
「痛み入ります。それでは――」
そうして二人は足早に応接室を後にした。席に残された俺と伊勢崎さんは、同じタイミングで出されていた紅茶を飲む。
味はなかなか。やはりなんでもかんでも地球に劣るというわけではないようだ。これからはその辺も調査していく必要があるだろう。
「ふう……。それで今のなんだと思う? 伊勢崎さん」
伊勢崎さんは少し考え込み、
「そうですわね。やはりおそらく――」
その口を開くよりも早く、扉がバタンと開かれた。突如現れたのは二十歳前後の金髪縦ロールの女性。
「あなたね、マツナガという行商人は! わたくし、あなたのお菓子の大ファンなの! あんな素敵なお菓子を売ってくれて本当にありがとう!!」
女性は勢いよくこちらに近づき俺の手を握ると、ぐっと顔を近づけて興奮気味にしゃべりだした。
その様子に、隣で座る妻役の伊勢崎さんの顔が真っ赤な般若の如き表情に変化する。
妻役としてはなかなかのリアリティなのかもしれないけれど、この女性が誰だかわからないうちに、その表情はヤバいと思うよ。
それをこっそりたしなめる間もなく、続いてライアスも部屋に入ってきた。ライアスは俺と女性を交互に見て、慌てたように早口で声を上げる。
「こ、こちらの方はカリウス伯爵のご息女、レヴィーリア様でございます。マツナガ様に直々に御礼を申し上げたいとのことでして――」
その言葉にレヴィーリアというらしい女性はハッと口を開けると、俺から手を離してその場に立ち上がった。
「そうでしたわ! まずは自己紹介を――わたくし、カリウス伯爵家が次女、レヴィーリア・カリウスと申します。以後、お見知り置きを」
俺のようなただの平民に、胸に手をあて華麗なお辞儀を見せるレヴィーリア様。
そして俺の隣では、真っ赤だった伊勢崎さんの顔が今度は真っ青になっていたのだった。
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