24 聖城学園『レトロゲーム部』
「あっ、聖奈ちゃーん。今
レトロゲーム部の部室内。二人だけの部の部長である
私は見つめていたスマホから視線を上げ、彼女に答える。
「そうなのですか。ですが私にはサッカー部のお知り合いはいませんので……」
おじさまからいつ連絡がきてもいいようにスマホを眺める至福の時間を中断させてまで、わざわざ伝えるくらいだ。私は知らないけれど、きっと学園では有名な方なのだろう。せっかく話を振ってくれた前野先輩には申し訳なく思う。
しかし前野先輩はカートリッジを『済』と書かれたダンボールに投げ入れながら、呆れたようにため息をつく。
「なーに言ってんのさ、ついこないだこの部室まで乗り込んで聖奈ちゃんに告白した、あのいけ好かないイケメンだよ。私も部室にいるのに告白してきたあたり、自信あったんだろねー。速攻でフラれてうろたえてたのはめちゃ笑えたけど!」
心底楽しそうに笑う前野先輩。その話を聞いて思い出した。これはおじさまを害したあの憎き悪漢の話だ。ホッケー部だと思っていたけれど、実はサッカー部だったらしい。
どうやら彼が
あの時のことを思い出しただけで、怒りで目の前が真っ赤になりそうになる。私は軽く息を吐いて気持ちを落ち着かせると、前野部長に言葉を返す。
「交際の告白にこられる方は週に一人以上、お手紙だけなら毎日のように届きますもの。申し訳ないのですが、覚えきれないのです」
「たしかにねー。マジでひっきりなしにやってくるし、聖奈ちゃんならそんなもんか。ってか聖奈ちゃんって告白されてもほんと塩対応だけどさ、あの中に少しは気になる男子とかいないの?」
「いませんわ」
「あら、バッサリとしたお答え。もしかしてすでに意中の殿方がいたりー?」
「ふふっ、ご想像にお任せしますわ」
「えーなにそれなにそれー? きーにーなーるー」
前野先輩が両眉を上げながら興味深そうに身を寄せてくるけれど、もちろん私が意中の殿方――おじさまのことを口にすることはない。今はとても慎重に行動すべき大事な時期なのだから。
私だってわかっている。おじさまが私のことを妹としてでしか見てくださっていないことは。
しかしこれからは違う。違わなければ変えてみせる。
おじさまとの仲を深める最高の舞台――『異世界』を通じて、私とおじさまは喜びや悲しみ、苦労、そのすべてを分かち合い、支え合って過ごしていくのだ。
そうした生活の中、おじさまは最初の頃はいつもどおりのそっけない態度をとるだろう。しかしいつからか私の中の女を意識してくださって……。でも私は気づかない振りをしておじさまを困らせるの。そんな日々がしばらく続き、やがて我慢できなくなったおじさまは不意に私を引き寄せると、戸惑う素振りを見せる私を強引に抱きしめて、それから――フヒヒヒッ。
「うえっ……どしたん聖奈ちゃん? 学園一のアイドルらしからぬヤバい顔してるけど……」
なぜか身を引きながら、前野先輩が怪訝な顔を私に向ける。けれど話題を変えるにはちょうどいい。
「私の話はもういいじゃないですか。それよりも前野先輩はさきほどから一体なにをされているのですか?」
今日私が部室にきたときから、前野先輩はテーブルに大量に積まれている同じタイトルのサッカーゲームのカートリッジをゲーム機に挿し、一度起動させては抜き、別のカートリッジを挿し込むという行為を繰り返している。
たまに突拍子のないことをされる方なので、それは見ていて楽しいのだけれど、これはさすがに私の理解を越えてしまっていた。
「よくぞ聞いてくれたね! いつ聞いてくれるんだろうって思ってたのに、今日はずーっとスマホを見ていたからさあ!」
そう言って前野先輩はカートリッジの山を指差す。
「実はこのサッカーゲーム。中が改造されていてエロゲが入っているバージョンがあるらしいんだよ! 今はそれをチェックしているわけ! いやーこれだけ集めるのほんと苦労したよー」
「は……? サッカーゲームの中に……? 一体なにを言っているのですか?」
「むふふ、そのうちわかるって! 見つかったら一緒にプレイしようね!」
そうして再びカートリッジを差し込む作業を再開する前野先輩。意味不明のことを言う先輩に呆れ、私がため息をついたその時、スマホがぶるっと震えた。
画面を見るとLANEのアイコンにチェックマークがついている。LANEはおじさまとお婆様の二人にしか教えていない。
私ははやる気持ちを抑えながら、LANEの起動を試みる。たしか……こうやって、こう……のはず!
そうしてLANEの起動は奇跡的に成功した。そこにはおじさまの言葉で、
『明日は休日だし、お昼頃から例の場所にいかないかい?』
そう書かれていた。
ああっ、おじさまが私のために送ってくださったお言葉というだけで、単なる文字の羅列が光り輝いてさえ見える。おじさま、なんてステキなのかしら……!
私はすぐに返信を行うことにした。返信するのは初めてだけれど、頭の中で何度も練習した。私に抜かりはない。
ええと、『も・ち・ろ・ん・い・け・ま・す』と。
文字を打ち込み、そして送信――成功!
機械操作の苦手な私が、まさか一度で成功するだなんて。これが愛の力と言わずして、なんと言えばいいんだろう! おじさまはいつも私に力を与えてくれる。おじさま、好き! 好き好き大好き!!
私はまるでおじさまに抱かれているような幸福感に浸りながら、スマホを両手に持っておじさまからの返信を待つことにした。
◇◇◇
百均ショップの他にもいくつか店を周って仕入れを十分行った後、俺はLANEで伊勢崎さんに連絡をした。
機械が苦手という話を聞いていたし、返事がなかったら後で電話しようと思っていたのだが、意外と返事はすぐにやってきた。
さっそくLANEを見る。そこには短く四文字。
『もろちん』
とだけ書かれていたのだった。
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