ep.25 天界へ枕投げしに行ける力、うつります。
「セリナ。お疲れさん。やっと寝つけたか」
「あれから、幾つものクリスタルを見つけてくれて、ありがとう」
僕があの異世界で、寝ている間の「夢」として来ている、ここ上界。
そこで、神であるイングリッドとミネルヴァが、安堵の笑顔で出迎えてくれた。
ある程度、あの異世界の仕組みを知った今、訊きたい事はたくさんある。
でも、今はそんな僕と、神々の3人だけで話を… というわけにはいかなかった。
というのも、
ボフッ!
「とりゃー! 枕攻撃くらえー!」
「なっ! こんのー!」
今の、キャッキャとはしゃいでいる声は、マリアとルカ。
上界の一つ、天国と地獄の「狭間」内で、彼らはパジャマ姿で枕投げパーティーを行っているのであった。
もちろんマイキやキャミ、そしてリリーも寝巻き姿だ。こうなった理由はただ1つ。
「セリナ。お前がそろそろ寝つく頃に、今日まで解放された仲間達が、こうして一斉に上界へ辿り着いたんだ。もちろん、向こうで寝ている間の『夢』としてな」
「彼らには、既に私達の方からセリナを送り出した経緯を伝えている。でも、不思議なものね。もしかして、あなたの傍で寝たから、皆こちらへ転移できるようになったとか?」
と、ミネルヴァが首をかしげた。
どうやら、現役の神々でさえも、先の仕組みはよく分かっていないようだが…
つまり、昨日まで異世界のみの暮らしだった仲間達が、この上界と異世界を行き来できる僕と一緒に寝た事により、何らかの力が働き、以降こちらへ転移できる様になったらしい。
ん?
という事は、前回アゲハが上界へ辿り着けたのも、あの日僕が隣で寝たから!?
じゃあ、ゆうべアゲハが言っていた「私はヒナと一緒に」の意図って、もしかして…
「いたいた。アキラ、ようやく寝つけたんだってね」
アゲハの声だ。僕は振り向いた。
そこには前回同様、寝巻きのワンピース姿である彼女と――確かに、耳と手首に飾りは付いていないな――、その隣にはマーメイドスタイルのネグリジェ姿であるヒナがいる。
ヒナが、僕の添い寝なしで転移出来ているのだ! アゲハに僕の謎の力が付与された!
「ひまわり組のみんな、久しぶり。いま、下界探しで色々と大変みたいだね」
みんなから一通り事情を聞かされているヒナが、不安そうに伺う。
イングリッドとミネルヴァ、通称「ひまわり組」の2人は、途端に歯痒そうにしていた。
「私達の元きた世界が、どこかへ消えたかもしれないって聞いたの。でも、地獄に強制送還はされていないから、私達の世界が『死んでいない』ことは間違いないのよね?」
僕はドキッとした。
2人からの返事は、やけに自信のない「恐らく」のみ。
そのあいだ、僕はリリーへと目を向ける。
リリーは、罰が悪そうな顔を隠す様に、静かに視線を逸らした。
アガーレールの人達の前世が、なぜか読めなくて、僕らの前世は読める。
それも「元きた世界」のみ―― なんて経緯は、リリーの口から告げられるはずもなく。
その一瞬たる仕草を、ルカは見逃さなかった。
マリアたちも、その視線に何となく気づいたのか、揃ってリリーへとチラ見した。
でも、誰も本人から何か訊き出そうとはしなかった。気のせいだと思われたか。
その時、後方から、ズンとくるような重低音が鳴った。
別の空間へと通じる、トンネルが生成されたのだ。そこからくぐってきたのは、
「あ! 礼治さん!」
ヒナがその姿にすぐに気づき、そちらへと駆け寄る。
そう。開いたのは地獄への出入口。そこから、現役魔王の礼治が顔を出したのだ。
ここはアゲハも駆け寄り、地獄での業務を後にこの狭間へきた礼治へと、揃って
魔王、女王、そして母神様(?)。
そんなイトコ3人の、見ていて胸を締め付けられるような合流が、そこにはあった。
――――――――――
「兄さんと交流してすぐの所申し訳ないけど、そろそろ時間だから、私は先に失礼するよ。帰還するマニュエルを出迎えなきゃ」
抱擁は、かなり短かったように感じる。
アゲハが、すぐに顔を上げて上界からの「離脱」を表明した。
アガーレールの君主たるもの。敵陣から無事生還した勇者様の帰還を出迎える事は、とても重要な公務の1つである。
「わかった。俺もそろそろ地獄へ戻る」
「礼治さん、私も一緒にいっていい? そこで、2人きりで話がしたいの」
と、ヒナが礼治の腕に掴まりながら、一緒にトンネルへと歩いていった。
礼治は特に断る様子もなく、一旦僕たちに目くばせをしてから、この場を去ったのだった。
しかし、その「地獄」はマグマだらけの灼熱世界というね…
まぁ礼治というスパダリがいるから多分大丈夫だと思うけど、ヒナちゃん、そこで焼き魚にならないよう気を付けてな。
「私もそろそろ起きようかな~♪ 兄ちゃん帰ってくるんでしょ?」
と、次にマリアが床に落ちてる枕の元へ、仰向けに倒れた。
こっちで眠れば、元の異世界で目が覚める。その原理をここで発動させる準備である。
「私もだ。マニーと話したい事がたくさんある。キャミたちは?」
次にマイキのその問いかけに、キャミ達残りのメンバーもコクリと頷いた。
アゲハがその光景を微笑ましく見つめ、フッと口角を上げた。
そして、僕たちから背を向けると、全身が光のパーティクルとなって、消えていった。
――ああやって、元の世界で目を覚ますんだな。みんな。
僕はそうメカニズムを理解し、続いてマリア達がいた所へと目を向ける。
そこにはもう、仲間達は誰1人いなかった。
転がっていた枕も、一緒に転送されている。
みんな、向こうで目を覚ましたんだね。
「それにしても、妙ね。アゲハとマニーのこと」
こうして残りは僕だけとなった今、ふと、ミネルヴァがぽつりと呟く。
アゲハとマニーがどうしたのだろう? 彼女の言葉は続く。
「なぜ、その2人は、クリスタルチャームに封印されていないのかしら?」
たしかに!
普通なら、マリア達仲間と同様、今頃は封印されていたっておかしくはないのだ。
するとイングリッドが、
「たんに、自分達が封印されていた記憶がないだけなんじゃないのか? 俺たちの手でセリナを降臨させる前に、先に解放されたという線も考えられるぞ」
といった。
確かに一理ある。でもそうなると、その封印を解いた人物って…!
「どちらにせよ、クリスタルから魂を解放するための『まじない』が使えるという、そのサリバとイシュタって若者2人に会って話がしたいな。彼女達は一体、何者なんだ…?」
そう、イングリッドが顎をしゃくった。
まさかの自分達より先に、下界の先住民によって仲間が解放されたのだ。ひまわり組にとっては、正に予想外といえよう。
「アゲハ達が向こうで目を覚ました当時は、その子たちはまだ小さかったんでしょ? 1人だけならまだしも、2人もの魂の解放を無意識に… なんて事があるかしら?」
「さぁ。それも実際に会って、彼らの能力について俺達で調べてみなきゃ分からないだろう。だから、そういう意味でも先代魔王3人、CMYの解放は早いに越したことはないんだ。
というわけだからセリナ。引き続き、クリスタルチャーム探しをよろしく頼む」
ですよねー。
結局はそのボスキャラ達を解放しない限り、現役神々の自分達は動けない、と。
なんて無n… じゃなかった。こんなにも
僕は、先が思いやられた。
(つづく)
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