トーキョーストリートシティ
三咲みき
第1話 人が消える街
「おう、ミナト。お前もすっかりこの店に馴染んできたな」
タカミヤは店に入ってくるなり、オレに声をかけてきた。
「なんだ、今日は非番か?」
「そう。だからモーニング、食いに来た」
そう言うタカミヤはいつもの警察官の制服ではなく、ランニングウェアを着ていた。ここへ来る前にひとっ走りしてきたに違いない。
午前8時の『喫茶ミカゲ』。店内にはお客さんの姿がちらほらある。慌ただしく人々が行き交う大通りとは対照的に、ここではゆったりとした時間が流れている。
オレはタカミヤを席に案内すると、メニューをテーブルの上に置いた。そして彼に会ったら訊こうと思っていたことを訊いた。
「なあ、タカミヤ。ユウマが失踪した件だけど、その後捜査はどうなった?」
タカミヤは「ユウマ?」とメニューをめくる手を止めずに言った。そして今思い出したかのように「ああ」と頷いた。
「どうなったも何も、捜査は打ち切りだ」
「打ち切り?どうして?まだ3日も経ってないじゃないか。もっとしっかり調べてくれよ」
タカミヤは気だるそうに頭をボリボリと掻いた。
「あのなぁミナト。この街じゃ、失踪なんてよくあることだ。いちいちそれに時間を割いていたら、人手が足りなくなる」
「だけど………」
その後に続くタカミヤの溜息に、オレは口を閉ざした。
この街では人が消える。老若男女問わず。これまでに失踪した人数を挙げると、一体何人にのぼるのか。
失踪者が相次いでいるというだけでも十分おかしいが、不可解な点はもう一つある。それは、住人が消えると共に、その人が所有している家具も、家も、なにもかもが一夜にしてすべて消えるという点だ。次の朝起きたら、その人の家は更地になっている。
しかしこんなことが多発していても、この街の住人は何事もなかったかのように平然と過ごしている。人がいなくなることが常態化していて、皆もう何とも思わないのだ。タカミヤが言うようによくあることとして受け入れている。
この街に来てまだひと月しか経っていないオレには、この状況は本当に信じがたいものだった。
「なぁ、頼むよタカミヤ。ユウマはオレの親友なんだ。あいつを見つけ出せなくてもいい。せめて手がかりだけでも………」
「ミナト」
タカミヤはメニューをパタンと閉じた。
「捜査は打ち切り。もう決まったことだ。俺じゃどうすることもできない。今の俺にできることは、この『ふわとろたまごのサンドイッチセット』をおいしく頂くことだ。そしてお前にできることは、黙って早くこれをもってくることだ」
有無を言わせない彼の口ぶりに、オレは「わかったよ………」と、ただ従うしかなかった。
警察は当てにならない。こうなったら、オレ一人でユウマ失踪の手がかりを探すしかない。
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