第29話
青っちのお願いで2人は観覧車に乗っていた。
30分ほど並んでいる間に周囲は暗くなり始めて、観覧車が頂上付近にきたときには園内はイルミネーションで輝いていた。
「わぁ、綺麗!」
観覧車から下を覗いて舞は歓声を上げる。
園内の中心には大きな花壇があり、その周辺を囲むようにしてハート型に光が輝いているのだ。
「これを舞に見せたかったんだ」
青っちが少し照れた様子で言う。
「ありがとう。すっごく綺麗だよ」
初めての休日デートでこんなにロマンチックな気分になれるなんて思っていなかった。
胸の中が幸せで溢れ出してしまいそうになる。
そんな舞の手を青っちが握りしめた。
相変わらず大きくて、包み込まれるととても安心感のある手だ。
「舞」
青っちの顔が近づいてきて、舞は自然と目を閉じた。
心臓の音がうるさくて青っちに聞こえてしまうのではないかと不安になる。
だけどきっと青っちも同じ。
心臓がドキドキしているに違いない。
青っちの唇が触れて、少しその場に留まって離れていく。
そっと目を開けると真っ赤に照れた青っちと視線がぶつかった。
その顔見て思わず吹き出してしまう。
「なんで笑うんだよ?」
「だって、青っちの顔真っ赤」
「舞だって真っ赤」
青っちの手が舞のほてった頬を撫でる。
その優しい手付きにうっとりとしてもう1度目をとじかけたとき、また違和感があった。
ハッと息を飲んで目を開け、頬に触れている青っちの手をにぎる。
その手は少し色が薄くなり、観覧車のベンチが見えている。
「青っち!?」
驚いて声をかけた瞬間、青っちの体が狭いベンチに横倒しに倒れていた。
呼吸が荒く、額から大粒の汗が流れている。
「青っちどうしたの!? 大丈夫!?」
「大丈夫。なんだか少し、クラクラしただけ」
青っちはそう言うとふぅーと大きく息を吐き出した。
その言葉どおり、すでに顔色はよくなっている。
「下に降りるまで横になってるといいよ」
舞はそう言って、青っちの手を握りしめる。
その手はもう透けてはいなかったのだった。
☆☆☆
次の登校日、C組の教室に入った舞を待ち構えていたのは3人組だった。
舞はあっという間に3人に取り囲まれて「休日デートはどこに言ったの?」「キスくらいはした?」「青っちの私服ってどんなの?」など質問責めにされた。
舞はキスの質問以外に答えながら、頭の中は透けていた青っちの手のことでいっぱいになっていた。
観覧車から下りた後は別段変わった様子はなかったけれど、たしかに青っちの手は透けていた。
そしてそのタイミングで青っちは青ざめて冷や汗をかいていたのだ。
「もっと聞かせてよ。ぼーっとしてどうしたの?」
恵美が舞の肩をつつく。
「うん……」
頷いてみても舞の心はここにあらずだ。
今日はまだ青っちは来ていなくて、視線は自然と青っちの席へと向かってしまう。
デートの後約束どおり家まで送ってくれた青っちだったけれど、体調は大丈夫だったんだろうか。
今日はちゃんと登校してくるだろうか。
そんな心配をしていたとき、教室前方から青っちが入ってきた。
「あ、旦那さんのおでまし!」
愛が嬉しそうに舞を囃し立てる。
舞は青っちの姿を目に止めた瞬間、無意識にかけよっていた。
心配そうに背の高い青っちを見上げる。
「おはよう舞」
「うん。青っち、今日はなんともない?」
「大丈夫だよ。昨日はなんかちょっとフラついただけ。おかしいよなー今まであんなこと1度もなかったのに」
青っちは自分でも不思議みたいで首を傾げている。
普段どおりの青っちの様子にひとまず胸をなでおろす。
「そっか、それならよかった」
舞が微笑んだ瞬間、青っちの体がフラついた。
慌てて手を差し出すと青っちは舞に体重を預けてきた。
「青っち!?」
「大丈夫。でもなんか……」
青っちの声は弱々しい。
一瞬にして額に汗が滲んで、よく見ると首元が透けているように見える。
舞は息を飲んで青っちの首元を見つめた。
向こう側の壁が透けて見えている。
これってどういうこと!?
混乱しそうになったとき、透けていた部分は何事もなかったかのように元に戻った。
そして青っちも大きく息を吐き出し、舞から離れる。
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