第27話

青っちと付き合い初めて一週間が経過しようとしていた。



明日は学校が休みで、初めて丸1日使ったデート日である。



付き合う前に遊園地には行っているけれど、あれはまた別物だ。



舞は鏡の前で何度も着替えをして、ああでもない、こうでもないと、翌日のコーディネートに苦戦をしていた。



元々服はそんなに沢山持っていないし、女の子らしい可愛い服は更に少ない。



青っちは明日のデートのためになにか考えてくれているみたいだけれど、どこに行くのかも教えてもらえていなかった。



青っちなりのサプライズなんだろうけれど、行く場所がわからないから洋服選びも難航していた。



「そんなに服を放り出してどうしたの?」



自分の部屋にこもりきりになっているので、様子を見に来た母親が目を丸くして言った。



布団の上にも床の上にも洋服が散乱している。



「お母さん、どうしよう……」



舞は眉を下げて母親に泣きついたのだった。


☆☆☆


それから1時間後。



母親に見てもらいながらどうにか明日のデート服が決まった。



行き場所がわからないということで、動きやすいロングスカートとTシャツというスタイルになった。



「靴はお母さんの白いミュールを貸してあげる。あれはヒールが低いから長時間歩いても大丈夫だから」



「うん、ありがとう」



お礼を言う横で母親が枚のカバンに絆創膏を2枚入れた。



「念の為。靴ずれとかあるかもしれないから」



「そんなものまで?」



「慣れない靴だから万が一ってことがあるでしょう?」



普段はきなれた運動靴ばかりをはいている枚にとっては目からうろこだ。



世間の女子たちはみんなこんなところまで気を使ってデートをしているのかと思うと、脱帽だ。



自分はもうすでに疲れ切ってしまっていた。



「さぁ、服が決まったなら早くお風呂に入って寝ちゃいなさい。遅くまで起きてたら肌に悪いから」



「はぁい」



舞は大きなため息と共に返事をしたのだった。


☆☆☆


そして待ちに待ったデート当日がやってきた。



昨晩はよく眠ってスッキリ目覚めることができたから、肌の調子は良さそうだ。



出勤前の母親が舞に薄くファンデーションをぬってくれて、ピンク色のグロスも付けてくれた。



ナチュラルメークだけれど、これだけで随分と印象が変わったように感じられる。



鏡の中の自分を見て少し恥ずかしさを覚えながら、昨日決めた洋服に着替える。



その間リビングでつけっぱなしになっているテレビからニュース番組が流れてきた。



『では、次のニュースです。アメリカで非常に珍しい病気が発見されました。体の色が徐々に抜け落ちていき、透明になるという奇病で、それは透明病と呼ばれているようです。体の色が薄くなればなるほど患者の体力が落ちていき、最後には寝たきりになってしまうそうで――』



部屋でニュース番組を聞いていたとき、玄関のチャイムの音が鳴り響いた。


きた!



舞は慌ててバッグを掴んで部屋を出て、リビングのテレビを消し、そして玄関まで向かった。



私、辺じゃないよね?



玄関前に置いてある姿見で自分の格好をもう1度確認する。



服も靴も髪型も大丈夫だ。



よし、大丈夫だ。



玄関を開ける前に一旦立ち止まり、スゥと息を吸い込んだ。



ドキドキと高鳴る心臓。



緊張をほぐすように笑顔を浮かべる。



そして、玄関を開けたのだった。


☆☆☆


初めての休日デートの日、青っちは黒いTシャツにジーンズという以前と同じ出で立ちでやってきた。



青っちの方も舞と同じで、あまり服のレパートリーがないのかもしれない。



「今日はどこへ行くの?」



家を出て青っちについて歩きながら質問をする。



「秘密」



青っちは振り向いて楽しそうに答えた。



その表情はイタズラを考えている子供のように可愛らしくて、舞の胸はキュンとした。



見た目でみんなから敬遠されてしまう青っちは、本当はこんなにも可愛い。



「青っちって見た目で損してるよね」



「え、なんで?」



本人は自覚がないようでキョトンとした表情になった。



「なんでもない」



舞は笑って答える。



やがて前方にバスのりばが見えてきた。



「今日もバスに乗っていくから」



「え、もしかしてまた遊園地じゃないよね?」



バス停で足を止めた青っちに聞くと、青っちは一瞬押し黙り、そして気まずそうに視線をそらした。



どうやら図星みたいだ。



「わ、私遊園地大好きだよ! 何回行っても飽きないし!」



慌てて取り繕うと青っちは以前と同じようにポケットから遊園地のチケットを2枚取り出した。



「あ、チケット代今度は私が払うよ?」



「いや。実は父親が会社でもらってきたんだ」



「お父さんが?」



どういうことだろうと首をかしげると、青っちのお父さんはイベント会社に努めていると言う。



今度あの遊園地でプロジェクションマッピングなどのイベントが開催されるらしく、そのイベントに協力することになった。



それがきっかけで沢山入場券をもらうことができたみたいだ。



そういうことならチケット代は甘えられる。



2人してバスに揺られて遊園地までの道を行く。



一番奥の長い椅子に座っていると、青っちが手を繋いできた。



舞はその手を自然と握り返して、微笑み合う。

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