25:バイト使用人と港エリア
船は銀花島に到着し、俺達はやっと銀花島の土地を踏みしめた
銀花咲く乙女たちの花園
お嬢たちが三年間を過ごす小さな島へ
「ここが銀花島」
「本当に、学校と必要な施設だけで構成されているんですね・・・普通に買い物ができそうなお店もあるようです」
「店は充実しているみたいだけどさぁ・・・これって」
視界に入る値札をお嬢と見ていく
残念。遠目から見ただけでもわかるレベルで桁がおかしい。六桁ばっかりなんですけど
「・・・三桁は?」
「カラーボックスが六桁・・・?どんな素材を使えばこんなとんでもない価格に」
「ここに材料記載されてるけど、俺にはさっぱりだ。お嬢、何かわかる?」
「国産桐で作ったカラーボックスのようですね・・・?無駄遣いすぎません?」
「桐ってよくある高級タンスな」
「そうです。あれです」
「三桁で安くて部屋に馴染む良さげなヤツ買えるでしょ。桐が映える部屋ってなんだよ。和室か」
お嬢と俺は至るところに存在する六桁値札に震えながら道を歩いていく
ここはどうやら港エリア・・・通称「商店街」らしい
・・・その名称使うのやめろよ。商店街は庶民に優しいんだぞ
こんなぼったくり商売している店なんて一軒たりとも存在しねぇよ
「環、環、あの箱良さげなのです。買いなのです」
「確かに安いな。茨の画材入れの一つとして買っとくか」
おおっと、ここでとんでもない輩が出没してしまった
同じように店を見て回っていた茨様と環と合流を果たしてしまう
そういえば、環も実家が使用人家系とはいえ由緒正しいお家柄っぽいもんな
茨様は言わずもがな
そんな二人はこんな風にウィンドウショッピングなんて初めてなのだろう
金持ち専用の店を覗けばあら不思議。良さげなカラーボックスがあるではないですか
お値段うん十万円。それをすんなり買うと言っちゃう茨様を含め、周囲の生徒の感覚はどうなっているんだ。当たり前なのか、六桁が
「・・・環。カラーボックスは千円以内で買えるんだぞ。まだ買うな。諭吉を十人以上浪費して買うような代物じゃない。買いはなしだ。もう少しダンボールで我慢してくれ」
「そんなに安く買えるのか?」
「ああ。安くてお値段以上なやつが買える。だからもう少し待て。買い物は慎重にするんだ。下調べとか大事だからな?」
「あ、ああ・・・」
迫真の庶民に驚いたのか、環は持っていた財布を鞄の中に直す
これで俺も安心
他人事とはいえ、環は貴重な友人だ
そんな友人が無駄な浪費をしようとしている瞬間は流石に見過ごせない
気がつけばお嬢と茨様は近くの店を覗いていた
居場所はわかるし・・・俺たちはここで待っておくか
「環はこんな風に店を見るのは初めてか?」
「ああ。俺も茨も初めてだ」
「やっぱりか。そんなんなら普段の買い物どうしてたわけ?」
「家に店が来てくれる」
「金持ちの買い物は店が出向くのかよ・・・」
「逆に庶民は買いに行くんだな」
「むしろこれが普通だよ・・・まあ、俺もあんまり家具屋とかには行ったことないけどさ」
家具屋に行ったのは、雅日のランドセルを買った時だけだ
自社ブランドで製造しているランドセルが安くて丈夫だと近所の人に聞いたから、その時に大金握りしめてランドセルを買いに行ったぐらいだ
本当は学習机とかも買ってやりたかったけど、あの家に置く場所はないから諦めたな
「なるほどなるほど。また一つ普通の暮らしを学んだのです。砂雪、感謝なのです」
「お礼を言われるようなことは一切していませんよ」
「買い物係は砂雪を任命するのです!」
「お嬢と自分の買い物はともかく、俺は茨様と環の買い物までやらないといけないのですかね・・・?いいですけど」
「いいのか?」
「まあ、完全に任せきりはなしかな。環は毎回買い物ついてこいよ。きちんと買い物方法を覚えさせるから」
「ああ。助かるよ」
そういう買い物方法を理解していないのなら、教えるまでだ
まさか環に何かを教える立場になるとは・・・
「・・・」
「あれ、君はたしか・・・海原さん、だったよね」
「・・・!ひゃ、ひゃい」
気がつけば、俺の横に海原さんが立っていた
俺と視線があった瞬間、目を逸らしつつ返事をしてくれる
・・・怖がらせているのかな
「どうしたの?園宮様とはぐれた?」
「あ、の・・・お兄様から、伝言で」
園宮様とはぐれたわけではないらしい。伝言か
頑張っているなぁ、海原さん
てか、聞き間違いじゃなかったな
彼女、自分をお兄様と呼ばせているのか・・・いったいどういう趣味なんだ?
まあいい。今は伝言を聞こうじゃないか
「うん、何を伝えてくれるんだ?」
「あ、あの・・・、寮の場所。お兄様、下船時に地図を受け取られていて・・・五人一緒の場所みたいだから、一緒に向かわないかと・・・」
「なるほど。伝言ありがとう。ぜひともご一緒させて頂きたい。環は?」
「もちろん一緒に。伝言ありがとうございます、海原さん」
「い、いえ・・・あの、集合場所・・・あの時計の下にしています。大丈夫ですか?」
「さ・・・・・・ん!」
「ああ。時間はどれぐらい?」
「六時でどうかと、言伝を」
「さゆ・・・・クン!」
「了解。今、この話をしたのは?」
「紅花様と水仙様にはお話が済んでいます。後は岩滝様と天樹様だったので・・・これでお仕事完了です」
「それはよかった」
「い、いえ・・・いろはは当然のことをしたまでですから。では、いろははお兄様の元へ戻ります!」
「うん。気をつけてね」
彼女を怖がらせないように丁寧に話したつもりだが・・・ちゃんと出来ていただろうか
急ぎ足で戻る彼女を見送ると同時に、俺の背後に立った誰かが抱きついてくる
「さゆきくううううううううううううううううううううん!」
「おわっ!?」
「会いたかったで、会いたかったで!無事に到着して安心したわ!」
「ま、真純さん?」
俺に飛びかかってきたのは、誰かと思えば真純さん
今年からここで仕事をする彼は、先にこの島へ到着していたらしい
しかし、心配なのはわかったから・・・!俺に頬擦りするのだけはやめろ・・・!
「やばい、腹が、腹がねじ切れる・・・・!」
「砂雪ぃ!」
「ま!砂雪クンもうお友達出来たんやなぁ。僕もう安心した〜」
「あ、あの・・・砂雪、白目むきかけているので、腕離してあげてください!」
環が必死に止めてくれたことで、俺は真純さんの腕から解放される
真純さんの腕で締め付けられた腹は、少しだけ細くなった気がした
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