NoblesseFleur ー家業拒絶系落ちこぼれ令嬢とバイト使用人は学院の頂点を目指します!ー
鳥路
一年生・序章「始まりの1月」
序章1:十六歳の冬。借金総額二千万
元々、ロクな親じゃななかった
酒癖も、ギャンブル中毒も酷くって・・・子供の俺達には手がつけられないような外面だけ無駄にいい人たちだった
けど、もう少しだけ手を打っておけばよかったと思う
そうしたら、こんな事にはならなかったはずだから
「・・・」
「大丈夫かい、砂雪君」
「あ、店長。すみません、諸々の手続き、手伝ってもらって」
「いいんだよ。大変だったね」
火葬場で一息ついていると、バイト先の店長が声をかけてくれる
近所の弁当屋を営んでいる彼は、俺の家庭事情を理解した上で「お手伝い」として小学生の頃から擬似的に雇ってくれている
昔から色々なことでお世話になっているが・・・
まさか、こんなことに巻き込ませてしまうとは。本当に申し訳がなかった
「むしろ頼ってくれてよかったわ。あなた、一人ですぐ無茶をしちゃうから」
「奥さんも・・・すみません、わざわざ」
「・・・お二人共、急だったわね」
「・・・ええ。まあ」
首元を抑えながら、奥さんに返事をする
バイトから帰ると、家の中で両親が二人揃って首を吊っていた
人の死があまりにもあっけなく、そして突然やってきて・・・狼狽えた俺はバイト先に戻って店長に助けを求めて、二人を巻き込んでしまった
「砂雪君、まだ十六歳の子供なんだから。こういう時は謝るんじゃなくて、素直に大人を頼りなさい。いいわね」
「・・・はい」
「ところで、砂雪君。これからどうするんだい?」
「そうですよね。これからを考えないと」
「うちの人とも話していたのだけど、砂雪君と雅日ちゃんさえ良ければ、私達の養子にならない?」
「養子、ですか」
「ああ。どうだい、砂雪君」
俺としては嬉しい話だった
店長夫妻には小さい頃から良くしてもらった
あの日、二人に雇ってもらわなければ・・・俺と雅日は飢え死んでいただろうし
雅日の為にランドセルを、学用品の類を揃えてあげることも叶わなかっただろう
両親の虐待を児童相談所に訴えかけてくれたのも彼らだ
もしも二人の子供だったなら、なんて思わなかった日はない
優しい両親、時に厳しい両親の側で俺も雅日も真っ直ぐに、子供らしく育つことができたのなら・・・と
けど、今はもう無理だ
あの件に恩人である二人を巻き込めない。巻き込みたくない
「ごめんなさい。俺としても嬉しい話なのですが・・・事情がありまして」
「それは、ここに雅日ちゃんがいない事にも関係があったりするかい?」
「ええ。実は、その・・・お恥ずかしい話なのですが、両親は法が通用しないような方々からお金を借りていたようでして」
「・・・どれぐらいなの?」
「総額四千万。残りは、二千万です」
両親が遺した遺書には、そう書かれていた
そして俺が肩代わりしなくていい二千万をどう返済したかも、そこに書かれていたんだ
「半分は、どうやって・・・」
「両親は死ぬ前に、とある金持ちと雅日を養子にする代わりに借金二千万を立て替える契約を結んでいました」
「そんな・・・」
「流石にこの件にお二人を巻き込んで、俺が大好きな弁当屋に危険が及ぶ真似をしたくありません。ごめんなさい」
それから俺は話題を切り上げるように席を立って・・・二人と話さないように遠ざかった
・・
葬儀が終わって、諸々を済ませた後
バイトをやめることを伝えて、一人帰宅した俺は・・・店主夫妻から頂いた弁当を食べながら、スマホで新しいバイトを探していた
流石にこの状態で今までのように、あの弁当屋で働くわけにはいかないと思ったから
「・・・美味しいな。やっぱり」
ここの弁当を食べるのも最後だろう。噛みしめるように、店で一番高い幕の内弁当を頬張った
「・・・ん?」
一緒に入れてもらったインスタント味噌汁のカップに隠れていたが、どうやら手紙が一緒に入ってたようだ
『雇用の関係上、君を引き止めることはできないけれど、養子にしたいという言葉は本心だ。お腹が空いた時、困った時はいつでもおいで。いつだって僕らは君の味方だからね』
ああもう、本当に優しい人達だ
けど、望む場所にはもう行けない
手紙は大事なものを入れる缶の中に入れ込んで、俺は再び食事とバイト探しを続けていく
「・・・やべぇ」
バイトを探せば探すほど、検索履歴が「内蔵 売っても生きられる」とか「内蔵 なくても支障がない」とか、だんだん内蔵を売ること前提になってきていた
借金二千万。半分減ったとは言え、普通にやって稼げる額じゃない
「雅日みたいに頭がよかったら、少しでも変わったんだろうけど」
ここにいない妹の雅日は、とても頭が良かった
それがわかっていたから、俺はあの子にきちんと勉強をしてほしくて・・・昼夜問わず働き続けた
その代わり、俺は学校に通えていない
「・・・もう少し、義務教育を真面目に取り組んでおくべきだったか」
学校から配布されてから、一度も手をつけていない新品の教科書を一瞥する
小学生の時に貰った教科書は全部古紙として回収してもらったっけ
手にとった数学の教科書を開いてみる
「・・・因数分解ってなんだよ。訳わかんね」
教科書を投げ捨てて、もう一度求人サイトに張り付いてみる
とにかく、遊んでいる暇はもうないのだ
働かないといけない
けど、そういう人達からお金を借りて・・・利息とか、とんでもないことになるよな
一生かけて、返せるのだろうか
「ん?」
玄関のチャイムが鳴る
こんな時間に誰だろう。借金取りのご挨拶かな
それは嫌だなぁと思いながら、ドアスコープを覗く
ドアの前にいるのは女の子
ここに来てくれる女の子なんて、一人しかいない
「加菜」
「さゆくん、ごめんね夜分遅く」
昔はうちの隣に住んでいて、雅日と三人よく遊んでいたのだが、俺の生活が仕事だらけになってからは疎遠になって・・・気がつけば引っ越していた
けれど、手紙のやり取りはしており、今は叔父さんが当てた宝くじで始めた事業が上手く軌道に乗って裕福な暮らしをしていると言っていた
俺達とは住む世界が違う人間になった彼女がなぜここに・・・?
「いいよ。それより何しに来たんだよ。こんな夜遅くに」
「ご両親に不幸があったって雅日ちゃん経由で聞いてね」
「雅日にか!?」
「う、うん・・・
「・・・」
瀬羽と言えば、俺でも名前を聞いたことがあるような大手家電メーカーの創業者一族だ
・・・そんなところからお声がけがあったなんて
誇らしいけど、なんだか複雑だ
けど、そうか
雅日は加菜が事情を知れるような大きくて裕福な家に引き取られたんだな
不自由はあるかもだけど、それでも今までよりはマシなはずだ
「住所は変わっていないみたいだったから・・・でもその、自宅が現場だったみたいだしここにはいないと思っていたんだけど」
「・・・周囲から別の場所で寝泊まりしろって言われたんだけどさ、荷物の整理とかしないとだから。あえてここに残った」
「・・・人が死んだ現場に?」
「まあな」
加菜からは正気を疑う目線を向けられる
それもそうか。掃除は済んでいるけれど・・・ここは人がつい最近死んだ場所だ
そんな場所で寝泊まりをするなんて、と思っているんだろうな
「その方が節約になるだろう?」
「相変わらずお金にケチケチしてる。むしろ前より悪化した?」
「そういう家庭なもんで」
「荷物整理、手伝おうか?」
「気にしないでくれ。加菜にはさせる仕事じゃないし」
「私にさせる仕事じゃないってどういうこと?」
「だって、部屋汚いし。タバコのニオイとか、食べかすとか酷いんだ。俺は慣れたけど、いい暮らしをしている加菜には地獄みたいな場所だよ。線香を上げに来たなら申し訳ないけど、帰ってほしい。代わりに上げておくから」
夜も遅いし、こんなところにいいところのお嬢さんを滞在させるわけには行かない
早く帰るように促すが、彼女はそう簡単に帰ってはくれなくて
「自分であげるよ。お邪魔していい?」
「いや・・・その」
「お線香上げに来たお客さん、追い返すの?」
「だって、その、なんのお礼も用意してないし」
「お礼とかいらないから。お線香上げに来ただけなんだから。お邪魔していい?」
「・・・どうぞ」
「お邪魔します!」
強めに迫ってきた彼女から圧を感じつつ、俺は渋々加菜が家に上がるのを了承する
・・・家、色々な意味で酷いけどいいのかな
しかし彼女がここまで圧強めに迫ってきたのは初めてだ
一体、何が目的なのだろうか
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