月光眼のライラ

青梅薄荷

月光眼のライラ

SEQ0――プロローグ――

SEQシークエンス0――プロローグ――


 4月5日。

 翌日に始業式を控える研宮とみや学園では、新しい高校1年生の戦闘技能を評価する試験が行われていた。


 無骨な剥き出しのコンクリートに囲まれた部屋で、ブレザーを着た学生たちが一対一のペアを作って戦っている。

 そのペア一組ずつに腕章を付けた学生が付き、評価シートを挟んだバインダーを片手に審判を務めていた。

 かく言う俺も左腕に腕章を付け、バインダーを手に持っていた。


「それまで」


 ドサッ、と男子生徒が投げ飛ばされ、ホコリが舞う。


「ま、まだやれます」


 今さっき投げ飛ばされた男子生徒が、制服に付いたホコリも払わずに抗議してくる。相手の女子生徒は、無言で俺に判断を求めていた。


「ダメだ」

「たまたま調子が悪かったんだ! 次は――」

「諦めろ」


 シートに評価を書き込んでいく。


「この昼行灯ひるあんどん! 腑抜けたエックス・・・・になんか……ッ」


 逆上した男子に殴りつけられた。フラついた俺をさらに殴ろうと、男子が近付いてくる。


「それ以上はやめろ」


 懐から拳銃・・を抜き、突きつける。


「うっ……」


 男子は悔しげにうめき、俺を睨みつけた。だが、もう殴りかかってはこない。


「じゃあな」


 落としたバインダーを拾い、拳銃をしまって歩き出した。

 外した腕章をバインダーと共に、部屋の入り口に立っている教師へ手渡す。


「ご苦労でしたね。花村さん」

「これで上がっていいですか?」

「ええ。報酬は、また後日」


 部屋を出る前に首だけで振り返ると、他の生徒も続々と帰る支度を始めていた。

 リノリウムの廊下ろうかを行きながら、久しぶりに受けた今日の仕事を思い返す。

 5時間働いて、日給6000円ちょっと。悪くない。悪くはないが、今後の生活を考えると心許こころもとない。


(どうしたものかなぁ……)


 うつむいて歩くこの時の俺は、とある少女によって観察されている事に気が付かなかった。


 仮に気付けていたとしても、俺にはどうする事も出来なかっただろう。

 これから起こる事件の奔流ほんりゅうを……

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