仮想世界の追放者

べっ紅飴

第1話 記念日ほど注意深く

歴史の勉強をしたことがあるか?


あの偉人がどうとか、今のこの世界に至るまでの経緯とか、はっきり言って、どうでもいいことこの上ない知識を無理矢理に詰め込んでいく作業。


好んでそんなことを知ろうなんて奇特な野郎はきっと少数に違いない。


9


知っていようが、そうであるまいが、問題なく自由気ままに生きていけるのがこの世界の最たる美点だと俺は思う。


しかし、かく言う俺は歴史の勉強をしたことがある1割に分類される。


別に好き好んでそんなことをしようと思ったわけではない。


俺は勤勉でも真面目でもない。やりたいことのために仕方なくだ。


なぜ仕方なく勉強することになったのかとか、そんなどうでもいいことを詳しく語るつもりはない。


必要な情報はたった一つだ。


世界で唯一の企業体であるサイバーテック社の入社条件の一つに歴史の学習が義務付けられているということである。


どれだけ技術が進歩したからといって人間は所詮人間のまま変わらないらしく、一年で終わらせる予定だったそれに、俺は2年もの歳月を費やした。


娯楽ばかりというのも退屈で、過ぎれば苦痛だが、知りたくもないことを自らの意思で脳に無理矢理詰め込むということも、それとは別のベクトルで辛いものだった。


思い出そうとするほどに愚痴しか出てこなくなってしまうが、今日から俺は漸くサイバーテック社サイテクに務めることが決まった。


俺にとって記念すべき一日になると、朝食を食べているときは思っていたものだが、どうやら記念すべき一日ほど災難に見舞われる日はないようだ。


俺が配属されたのは致死率80%の過酷部署だった。


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