フリ素@存在証明 ~フリ素オレ、異世界で人気大爆発しているようです~

烏合衆国

第一部 喧騒

序章


 ガキの動画に自動で字幕をつけるとかいう野蛮な文化でオレは名を売った。動画稿者としてではない、動画者としてだ。『残弾を数えるしゅーちゃん』は、知らない者はよほどインターネットを利用していないのだろうというくらいには浸透していて、今更打てる手は、何もない。



!」



 ……これが、その自動字幕である。何が言いたかったのか全く分からないだろう。オレも知らない。元になった動画は、両親が小さい頃のオレの様子を記していたブログに投稿されたものらしいが、既に閉鎖され動画も削除されていて見つからなかった。いくら調べても誰も保存していないようで、観たことがない。現存しているのは、その変な字幕スーパーのついた静止画のみ。某顔面を分け与えてくれるヒーローの人形を持っているから、その名を呼んでいるという説が有力だが、いくら旧型の字幕生成機能とはいえ、『ア』と『ザ』とか、『パ』と『ダ』とか、流石に聞き間違えないだろう。

 オレの不幸の極めつけは、自分ではあまりそうは思わないが顔があまり変わっていないらしくて、初対面でも普通に「残弾の人ですか?」と訊かれたことが何度もあるということだ。それで中学校ではずっとイジられていたし、去年入学した高校でも、初日にバレて、以来オレは皆に『しゅーちゃん』と呼ばれている。

 ちなみに『しゅーちゃん』とは両親がオレの名をブログにそう書いていたのが元ネタだ。字幕つきの画像だけでなく、オレの顔をデフォルメした、『しゅーちゃん』という名の可愛らしいキャラクターも流行している。簡単に描写すれば、銃を構えた半袖半裾の男の子。その絵は様々なバリエーションがありもはやフリー素材扱いで、SNS上でよく使われているのを見るし、TVのCMに使われたことすらあった。



 オレの人生は、そんな烙印と共に過ぎていく。

 はずだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る