15ページ目 邪気眼戦士の復活
黒魔術を覚えて2週間が過ぎ、使い方にもすっかり慣れ、魔術に翻弄されるクラスメイト達を見て、ほくそ笑む日々を過ごしていた。
しかし、どうも最近おかしい。
いや、おかしくしたのはボクなんだが、そのおかしくしたことが、おかしくなくなって、おかしい。何を言ってるのか自分でもわからなくなった。
ことの経緯は「ネクラになぁれ!」といつも通り、クラスの気に入らない野郎に黒魔術を掛ける。すると「オレは負の体現者。オレの居場所こそ世界の中心」と、オタクとは全く縁が無いような体育会系の人間ですらこんな痛々しい姿になるのに「ゴメンゴメン、なんか俺おかしかったよね」と効果がすぐに切れてしまう現象が何度か発生するようになった。
半日ぐらい効果があった黒魔術が、授業1コマ分、約1時間しか続かない。下手すれば休み時間の15分しか持たない時もある。
「ノミコ。どうなってんの?」
昼休み、ボクは体育館裏でノミコに語りかけた。
「おかしいですねぇ。私の術は完璧ですし、あなたのMP(マジックポイント)も術の発動には十分です。魔術を受けた相手が抵抗力を付けるにしても早すぎます」
「最近は術の影響も弱まってしまったせいか、クラスも落ち着き始めているし」
「まだ術を覚えて2週間です。あなたがまだ魔術を完全にコントロール出来ていない可能性もあるのですが」
ノミコは、ボクの力不足の可能性を示唆しつつも、違う答えを用意していた。
「これは“白魔術”を疑ったほうがいいですね」
「白魔術、またベタだな。その白魔術はどんなことが出来るんだ?」
「例えて言うなら、我々の黒魔術が
「現代高校生にもわかりやすい解説どうも。そんな知識どこで仕入れてきたんだ?」
「あなたの記憶を拝借してるんです。封印を解除したとき、あなたが持っている知識はワタシと同期されたんですよ。初恋の相手から初オナネタまで……」
うぉい! サラッととんでもないことを言わなかったか?
「しかし、これはゆゆしき事態ですよ。白魔術師と黒魔術師は相性が悪い。メン〇スと炭酸飲料ぐらい相性が悪い」
「サラッと流すな。あとなんでその例えにした? 泡吹きだして爆発すんの、ボク?」
「とにかく、早く白魔術師を見つけて、Killingしないとヤバいですよ!」
ノミコは、宙に浮かびながらシャドーボクシングをするように本の両端を交互に繰り出した。
「いきなり殺害するなよ。殺戮マシンかお前は」
「魔術師同士が
「魔術師の世界ってそんなに殺伐としてるのかよ!」
つい声が出てしまった。
「そうです! 学園の支配者の座を得るためには避けて通れない障壁です!」
「いや、学園の支配者なんて初めから欲しくないから」
「えぇっ!? 男として生まれたからには『番長』か『裏番』を目指すのが、健全な高校男子でしょうが!」
「なんだその偏見に満ちた健全は。その古臭い知識はどこからの情報だ?」
「蔵三に教えられました。そして学生時代の彼の願望でした」
じいちゃん、バカすぎる。
「じゃあ、そろそろ本当の理由を教えてほしいんだけど」
コイツがやたら騒ぐということは何かあるんだろう。今回もおチャラけているけど、騒ぐのはきっとバカげた理由だけでは無いと思った。
「へぇ、クラマくんもワタシの真意がわかるようになってきましたねー。ワタシ達、なんだかバディっぽくなってきましたね」
コイツと相棒ってうれしくない。ボクは搾取される側だしなぁ。
「われら黒魔術は天気に例えると黒い雨。対する白魔術は光る太陽。天気がコロコロ変わったら、作物や植物はどうなりますか?」
「たぶん、天気の変化に耐えられず枯れるか、やたらと発育するかどちらかじゃないの?」
「そう。たとえ水と太陽が十分に行き届いたとしても環境の変化が早すぎれば、植物は対応しきれず正しい成長が出来ません。学園内でこのまま種類の違う魔力が交互に使われ続けると、人々は魔力に翻弄され、疲弊していき、暴走し、いずれは破滅します」
それが本当なら大ごとだ。
「クラマくんの好きな子にも影響が及ぶかもしれませんよ」
「好きな人なんて」
ボクはそう言ったとき、金髪のイメージがふわっと蘇った。いやいや、身の程を知りなさいって自分。
「ホレホレ、早く白魔術師を見つけださないと、学園中大変なことになりますよ」
ノミコに心の中を見透かされているような気がした。
「あぁ、わかったよ。それで、どうやって見つけるんだ」
「白魔術師の一本釣りと行きましょう」
白魔術師はカツオかな? 魚が術を使うのかな?
「見るからにおいしそうな餌に飛びついてきた魔術師を見つけて、白魔術を使われる前に暴力的解決……違った。優しくお願いするんです」
「本音出てるぞ。あと、その作戦には穴がある」
「私の完璧な作戦のどこに穴が! あなたの目はふし穴ですけど」
「どこが完璧だ! じゃあ言うが、ボクの腕力は期待できない。実力行使は無理だ」
「あぁ、そんなことですか。ハナからあなたの身体能力にはこれっぽっちも期待してませんよ。そもそもワタシには、脳天直撃ダイレクトアタックがありますから」
うん、あれは確かに痛い。当たり所が悪ければ死ぬと思う。
「それで上手くいくのか?」
「そうですね。その場に私たちが居なければ意味が無いですのでごにょごにょにょ……」
「えぇっ!? それが作戦の要かよ!」
ノミコが作戦の核となる部分を説明したが、ボクにとってリスキーかつ古傷をえぐるものであった。
――*――
あぁ、明るい。
廊下の蛍光灯も明るい。
走り回る愚かな連中たちも明るくてうざったい。
まぶしいまぶしいまぶしいまぶしいまぶしすぎて、すべてがぼやけて見える!
暗闇が、暗黒が欲しい! 闇の深淵に抱かれてすべてを忘却の彼方へ捨て去りたい!
「滅べ、全部滅べ、一つ残らず消滅しろ、すべて消え去れこんな世界……」
「いやぁ……効きす……まし………」
キャンキャンとトチ狂った犬の遠吠えが聞こえる。だが、どうでもいいことだ。
「おーい、聞い……すか……。ちび……、小……生、ネ……ラ、童……」
そうか。この声、呪われし書物からのメッセージか。だがノイズがひどい。魂が揺らいでいるのか。
「ダメ……豆腐メン……ルに、こ……術はやりすぎ……強すぎた……すね。黒……術に……あっさり……ほど耐……無いとは……」
あぁ、カオスが魂に入り込んでくる。
自分が世界と同化するような感覚か。ふっ、久々に味わうな。そう2年ぶりの感覚だ。
「自分……魔術をかけ……餌に……れば……発見でき……、一石二鳥……思った……ですが」
ノイズがひどくて何を言っている変わらない……が、少し思い出した。
自分は贄になったのだ。宿敵をおびき寄せるための餌。
荒野を流浪する旅人がごとく、校舎という箱庭を彷徨い続けるが、皆自分を避けていった。
それが懸命だ。ケガをしたくなければな。
チッ、呪われし力が精神を蝕む。
相変わらず我がギアオブディスティニーの狂いっぷりには辟易する。
しかし、少々キツイな。
このような業をただの人間どもに背負わせていたとは……。
自分の残酷さが恐ろしい……。
ふっ。暗黒への耐性がある自分以外には、とても耐えられまい。
――*――
愚民どもの回廊を抜け、ただ肉体を酷使するための屋内闘技場の裏手をさまよっていた時、眼前に白いモヤが漂っていた。
「あっ……誰か来……す」
呪われし書物の声が遠のき、まとわりついていた気配もふっと消えた。
それと同時にこちらも限界が来たようだ。
目が霞み、耳鳴りや幻聴が聞こえるようになってきた。
どうやら自分の命運はここで尽きるようだな。
あばよ人生。クソみたいだったぜ。
「お……い。どう……の?」
なんだ?
寿命が尽きたせいか、目の前に天使が居る。
視界が不明瞭だが、女性の声で、神々しいオーラをまとっている。
「キミ、黒……術をかけ……のね」
黒魔術と聞こえた気がした。あぁ、そうか。天使であるなら、闇の騎士たる自分の正体なんてお見通しか。
「大丈……治し……げる」
天使がそう言うと、不思議な光が体を優しく包み込む。暖かい光だった。
あぁっ、心が、体が、軽くなる。これが魂の救済か。
さっきまで恥ずかしいことを考えていたような気がする。でもなぜか懐かしくてほろ苦かった。
「これで大丈夫。だけどごめん、今日のあたしとの記憶も消すね」
そうだ。ボクは白魔術師を追っていたんだ。
だから自分に黒魔術をかけて校内をさまよい、白魔術師をおびき寄せることにしたんだった。
「だけど許せない! 何の罪もない人間にこんなことをするなんて。黒魔術師とその魔術書は、私が絶対に捕まえて封印する!」
解呪されたおかげで、徐々に周辺の音がクリアになっていった。視界もゆっくりとだが鮮明になりつつあった。
「それじゃあ、またね。黒猫さん」
そして、ハッキリと認識した。
ボクの目の前に居た白魔術師の正体とは――
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