第35話 (グレイ視点)
「えっ?」
シャルリア様が固まっている。それはそうだろう。今まで俺なんて眼中には無かったのだろうから。
◇
生徒会役員になってからこっち、俺はこのままでは駄目だと痛感していた。
ライバルが殿下と王族の流れが強い公子様だ。気後れしなかったと言えば嘘になる。と、いうより、気後れしまくっている。相手は非の打ち所のない王子様と、社交界一の人気者だ。無愛想で不器用な子爵家の嫡男なんて、見劣りし過ぎる。彼女の元婚約者だって、本性がバレるまではキラキラしていた。やっぱり俺なんて、と、何度思った事か。
……未だにアズを好きだと思われてるし。
考えれば考える程、俺に有利な事など一つもないと思い知らされる。けれど、近くで話せるようになればなるほど、想いは勝手に募っていった。
無理だと思っていても心と体は素直なもので、勝手に彼女を守るように動いてしまう。
アネシス様との飾らないやり取り。無愛想な俺のことすら最近では楽しんでくれているようで、あれこれ試されているのも、ものすごく可愛い。さすがの公爵令嬢の知識量だし、本当に誰にでも優しい。殿下とフォンス様に口説かれて照れる姿なんて、天使以外の何者でもないと思う。かなり悔しいけど。あの二人のように振る舞うなんて、大火傷しそうで無理だよなあ。……無理とか言っている場合じゃないのだろうけれど……。いや、キツいな。
でも1日毎に、気持ちは積み重なっていく訳で。
シャルリア様の横に違う男がいるのは見たくない、とは思っていたけれど、日に日にその想いも強くなる。
「やっぱり気持ちをきちんと伝えるしかないと思うわよ」
「同感」
教室で悪友二人に言われるまでもなく、理解はしている。気持ちが伝わっていない以上、ライバルと同じ土俵にも立てていないのだから。
「分かってる、分かってるよ……」
けど、一歩が出ない。笑ってください。
「この間の休日、フリーダ殿下とお茶会をしたそうよ、シャルリア様」
「え……」
「前々から親しいものね。王城となると、殿下とフォンス様が有利だし?噂では、何か慶事ごとがあったようだし、どうなのかしらね?」
思わずガタンと立ち上がる。
「……シャルリア様のことかどうかは分からないけれどな」
「そんな顔をするくらいなら、って思うけど……。まあ、こればかりは本人次第だから。今日は殿下もいないし、私達は生徒会の外回りの日よ。話せるんじゃない?」
そう言われて生徒会室に行った俺は、シャルリア様の幸せそうな笑顔に遭遇する。そしてそれを悟らせまいと堪えているような。
やっぱり、あの二人のどちらかと纏まったのか。自分への不甲斐なさと相手への嫉妬心で、胸がチリチリする。
本当に俺は情けない。学習能力がない。また、見ているだけで何も出来なかった。そうだよ、何もしなくても、失恋はするんだ。だったら、行動するべきだった。知っていたはずなのに。
「……失礼ですが、シャルリア様、何かいいことがありましたか?」
この際だ、もう死刑宣告を受けよう。腹を括ってシャルリア様の言葉を待つ。
「実はね、まだ発表はされていないのだけれど……シス、いいわよね?」
ウキウキしている。こんな時でも可愛いな、くそ。
「グレイさんは口が固いですし、慶事ですし間もなく発表もされるので問題ないかと」
「そうよね!近々発表されるのだけれど、まだグレイさんの心に仕舞っておいてくださいな」
「……はい」
やはり慶事か。めでたいのに、心が重い。好きな人の幸せは願いたいのに。それすらできないほど執着しておいて、何もできなかったなんて笑い種だ。
「この間、フリーダ殿下とお茶会をしたのだけれど」
「……はい」
やっぱりルトハルト殿下か。長年の付き合いだしな。
「その場でね、うちのカルムとの婚約が決まったのよ!」
えっ?カ、カルム様?えっ。
「……カルム、様、と?」
「ええ、そうなの!可愛い二人のお祝い事だから、私、嬉しくて。恥ずかしながら顔に出てしまっていたのね」
「フリーダ殿下の……」
詳細は人の事だからと聞けなかったが、ぶっちゃけ俺にとっては経緯はどうでもよくて(カルム様スミマセン)、シャルリア様の事ではなかったことに、安心して体中の力が抜けたようだった。
そして、少し気が緩んだ俺は、また現実を知る。
「グレイさんたちのようにずっと仲良くても素敵」
そうだ、彼女には何ひとつ伝わっていないのだ。
そしてふと思い出す。彼女が殿下への誕生日プレゼントを選んでいたこと。幼馴染みの毎年恒例とは言っていたけれど、本当のところはどうなのだろう。特別だけれど、答えが出せないと彼女はポロッと言った。失言だったみたいで誤魔化していたから、きっと本音だ。
「弟にエスコートを頼むつもりだったのですけれど、今回のことで難しくなって……」
殿下のお誕生会だ。エスコートを受ければきっと、周りは二人が婚約したと思うだろう。きっと、フォンス様でも。……いや、フォンス様はそうならないか?
ともかく!逃げている場合じゃないぞ、俺!
首の皮一枚繋がっているだけだけど、何もしないであの絶望感を味わうのは嫌だ。
「でしたら。お……私では駄目ですか、シャルリア様のエスコート」
◇
……いや、分かってる。俺なんか全く眼中になかったと。それでも、この沈黙は辛いものがある。
彼女は、「えっ」と言った後、数十秒は沈黙しているのだ。
普段は突っ込んでくれるアネシス様も、さすがに口を噤んでいる。正しいのだろうけれど、いたたまれない。
口から出た言葉は取り消せない。今さら言い訳しても仕方がない。こうなったら、砕けるしかないよな。
「あの」
「……アズさんはよろしいのですか?今、私の横に立たれると、きっといろいろと言われ……」
「構いません」
砕けようと口を開いた所で、シャルリア様が呆然としたように問いかけてきて、俺は思わず強めに肯定した。シャルリア様は驚いた顔をしている。
「すみません、大きな声を出しました。でも、これ以上貴女に誤解されたくないのです」
「誤解……」
「はい。以前も申し上げましたが、アズと私は恋仲ではありません。お互い本当にきょうだいとしか思っておりません。……アズもシャルリア様にお伝えしたはずですが」
「だって、グレイさんの笑顔が……」
「お、私の、笑顔?」
「大事な人を想う笑顔が眩しくて、だから、私……」
ああ、アーロン達に言われていた事だ。我ながら嫌になる。
「彼女が……、いや、家族や仲間が大切なのは本当です。そこに嘘はありません。ですが、私がずっとお慕いしていたのはシャルリア様です。不器用で情けないのですが、女性全般得意ではないのですが、その……自分の想い人となると、余計に緊張してしまって、ますますどうにもならない顔になってしまうと申しますか。本当に情けない話なんですけれど」
しどろもどろで、カッコ悪いな、俺。でもこれが俺だ、仕方ない。
「爵位も年も下ですけれど。ずっと、貴女の横に立ちたい。もう、他の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます