第33話
「あ、こうなったら私のエスコートはカルムには頼めないわね?」
小さい頃以来の年相応のカルムを気の済むまで堪能した後。私は急にその事実に気付き、抱き締めていたカルムの肩を掴んで体を離しておもむろに声を出した。
うーん、そうしたらまたエスコート問題が浮上するわね。やっぱり結論を出すべきよね。まだ迷いはあるけれど……。本当に、何でこんなに迷うのだろう。自分でもよく分からないわ。
でもでも、弟の恋路の邪魔もできないし。うーん。
私は呆然としたカルムを差し置いて、すっかり考えの渦に入ってしまった。
「あ、あねうえ……」
「リ、リア姉様、あの、ですが私達はまだ……」
そして数十秒は経っただろうか、二人してゆでダコのようになっているカルムとフリーダの声で、現実に戻って来た。
「?フリーダの婚約者になるなら、二人が未成年でもルト様のお誕生会には二人で出席できるじゃない。何かダメだっけ?」
夜会は基本的には成人してからだ。けれど姉のエスコートであったり、王族の婚約者などは別なのだ。私はハテ?と首を傾げる。
二人はと言うと、更に顔が赤くなっている。ハテ?まあ、ものすごく微笑ましくて可愛いけれど。
「お嬢様。まだお二人はお互いの事実誤認を認識したばかりですよ。いささか性急なのでは?」
シスの苦笑しながらの言葉に、我に返る私。
「私ったら……!ごめんなさい、二人があまりにも可愛くて、嬉しくなってしまって」
そしてこれは余計なお世話かもしれない。けれど。
「でもカルム、このままでいいの?」
カルムがぐっ、と詰まる。恋情だったかどうかは分からなくても、長年、他の人を見ていた人に想いを告げるのは勇気がいる。分かるけど。
「また、見ているだけ?」
何もしなければ、ひとつも進まないのだ。……って、自分だと難しいけどさっ。でもでも、フリーダも嬉しそうだった。二人には幸せになって欲しい。
「こんなつもりで、付いてきた訳じゃなかったのに……。でもこれも、運命、なのかな」
カルムは何やら下を向いてボソッと呟いた後、首を振って顔を上げた。そして、意を決したようにフリーダの前へ歩みを進め、跪いて彼女の手を取る。
「フリーダ。このような場で許して欲しい。……僕の婚約者になっていただけますか。あのクズよりいい男になってみせるから。これからは、僕を見ていて欲しい」
カルムはフリーダの目を真っ直ぐに見て、そう告げた。
きゃー!我が弟ながら、格好いいんですけれど!
フリーダは、見えている肌が全部真っ赤になっている。うんうん、今までただの喧嘩相手だったものね。
「あ、あの、私……。本当にカルムには嫌われていると思っていて」
「うん」
「私も嫌い!って思っていたけれど、それでもやっぱり悲しくて」
「……うん」
「リア姉様もロイエ様も大好きで……今回こそは幸せになってほしくて周りで騒いでいたけれど、自分がどうこうなりたかった訳じゃなかったのも本当で」
「うん」
「……今、カルムが気持ちを伝えてくれたことが、信じられないくらい嬉しいの。自分でもびっくりするくらい」
フリーダがはにかんだ笑顔でそう言って、それを聞いたカルムは少し驚いたような顔をしている。
「……私でよければ、お願い致します」
フリーダの言葉と同時に、カルムがフリーダを抱き締める。
「ありがとう、フリーダ」
「こちらこそ。それと、ひとついいかしら?」
カルムが抱き締める手を緩めて、フリーダの顔を見る。
「もう充分、ロイエ様よりカルムの方が格好いいわ」
そのフリーダの言葉に、手で口を押さえて天を仰ぐカルム。
きゃー!何これ何これ!
甘々だわ~!尊いわ~!!
「おめでとう、フリーダ、カルム!」
お邪魔かしらと思いつつ、私は二人を抱き締める。
「……お兄様押しは譲らないけどね?」
「……それは、要相談だな」
二人の会話は聞こえなかったけど、ようやく想いが通じた二人を、私はしばらくの間抱き締めていた。
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