第32話 幼馴染みのケンカップル?

「ようこそ、リア姉様!金木犀はいかがですか?」


「わあ、本当に綺麗ね!それに、この香り!癒されるわ」


「フローラは見かけによらず、素朴な花が好きだよね」



またまた、王城のフローラ専用庭園にて。


金木犀も満開になったからとフローラが招待してくれた訳だけど、私を心配して付いてきてくれた弟が、不穏。



「カ、」


「あら、素朴な花が気に入らないのなら、帰って頂いても結構よ?カルム。それに素朴と言うけれど、リア姉様だってお好きな花なんですからね!」



私がカルムを諌める前に、フローラがすかさず反論をする。



「知ってるよ。純粋な姉上には素朴な花がよく似合う。もちろん、華やかな花々にも負けないけどね」


「そこは同意しますけれど、相変わらずのシスコンなのね?女子会にまで付いてきて」


「王城には不埒者が出没するからねぇ」


「ちょっと、誰の事を言ってるの?!さすがに失礼じゃない?」



うん、さすがに失礼よ、カルム。



と、口を挟みたい所なのだが、二人の刺々しいやり取りがテンポよく進んで、なかなか挟めずにいる。



この二人、昔からそうなのだ。



更にお互いに前世持ちと知ったので、余計に容赦がなくなっているようだ。……お互いに。



やっぱり、カルムに甘えちゃダメだったかなあ。



リンさんとシスは慣れているから動じてないし、いつもの面子で人払いもしてあるから、構わないと言えば構わないのだけれど。



「二人はなんでこうなのかしら?」



私にとっては二人共に可愛い弟妹で。この二人が反目する理由がずっと分からなくて、ふと本心からポロッと言葉が漏れた。



「あ、姉上、いや、失礼しました」


「ごめんなさい、姉様。せっかくのお花見なのに」



二人は一瞬止まった後に、照れたように謝った。思わず出た言葉で、大声で発したものではなかったが、二人の耳に思いの外スッと届いたらしい。



リンさんは苦笑し、シスは呆れを隠さないように話し出す。



「お二人とも、お嬢様への愛情が拗れていますからねぇ」


「うるさいよ、シス。だってフローラはあのクズの信者だったじゃないか。『ロイエ兄様とご婚約なんて、なんて姉様は幸せ者なのでしょう!』って。は?でしょ?あのクズが姉上と婚約出来たのがありがたい話だろ?」


「だ、だって完璧に見えたんだもの!……今回は大丈夫って。反省してるわよ!それに、カルムだって騙されていたじゃないの!」


「うっ。それは僕も反省しかないけれど。僕が言ってるのは、クズの嘘が分かる前の話だよ。姉上よりロイエだったろう?」


「だ、だって、でも、今は。……そもそもだって、二人に別れて欲しいとか、そんなことは思ったことはないわ。私は、姉様も大好きで……二人が幸せになってくれたら、って……」



フローラが見ていて分かるくらいに萎れていく。カルムの気持ちも有難いけれど、これはあんまりよね。騙されていたのはなんなら全員だし、あの完璧ぶった奴に憧れるのだって分かる。ましてや、フローラはを知っているのだ。より輝いて見えたのは想像に難くない。



「フローラ。私は解っているから大丈夫よ。……カルム、謝りなさい。私を想ってくれるのは本当に嬉しいわ。感謝もしてる。けれど……ううん、私が貴方に甘え過ぎているのもダメなのよね。こめんね、フローラ。嫌な思いをさせて」



フローラは俯きがちに横に首を振り、カルムはガタッと椅子から立ち上がった。



「ちが……!姉上は悪くなんて!……いや、すまない、フローラ。言い過ぎたし……八つ当たりも入っていた。僕が悪かった」



そして、フローラに向かって直角に頭を下げた。



「その、以前は姉上より奴を褒めているようで気に入らなかっただけだ。……それに、なんでもロイエ兄様が、だっただろ。それも気に入らなくて……」



ん?



と、きっと全員が思ったと同時に本人も気づいたらしく、慌てたように顔を上げて「違う、変な意味じゃなくて、比べられているみたいで嫌じゃないか!子どもの頃の三歳差ってデカイだろ?」と、余計に勘繰りたくなるようなセリフを宣うカルムくん。



「カルム様、墓穴を掘っておられますよ」


「だからシス、うるさい!もう、その冷静さが腹立つな?!」


「……もしかして、カルム様がフローラ様とのご婚約を嫌がられたのも……?」


「リン殿も、止めて?!」



普段14歳らしくないカルムばかり見ていたので、お姉ちゃんも楽しくなってくる。



「わた、私は……私は、カルムはただ私が嫌いなのだろうと」


「ねぇ、思っちゃうよねぇ?フローラ」


「姉上までによによと……。ええ、ええ、嫌いでしたよ!何でもロイエのフローラが!」



カルムはそう、ひとしきり叫び。



「でも、今はそうでもないですよ。……姉上が一番になったようですし」



シスコン発言はブラせることがないものの、耳まで赤くしてそっぽを向くカルム。



ふふっ、何だかんだ、初恋を拗らせていたのね?



「カルムったら、かわいい!」


「なっ、男にかわいいとか……!」



初めてと言ってもいいくらいの年相応に見えたカルムを、思わずぎゅっと抱きしめる。言葉は拒否していたものの、カルムは全く抵抗しなかった。



「やっぱりシスコンは筋金入りですね」


「どうされますか?フローラ様」


「リ、リン、どうって言われても……別にまだ分からないじゃない。リア姉様を好きになるのも分かるし」



フローラを残念な子のように見る侍女二人も、三人のぼやきも、カルムを楽しく揶揄っている私は気づかなかった。

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