第17話 ちょっとお茶会

「で?」


「うん?」


「フォンス様は、本日は何故こちらへ?」


お茶の準備が整えられた、いつもの応接室に五人全員が着席したところで、カルムがおもむろにフォンス様の顔を見ながら問い質すように聞いた。


微妙に失礼な感じの物言いに、私が口を挟もうとする前に、フォンス様が飄々と答える。


「さっきも言ったけど、姫達の顔を見にね。……それと、王子の方のイトコオイから連絡があったからさ。一応、姫達にも伝えておこうと思って」


「……ルトハルト殿下から?」


カルムが訝しげな顔をする。私もハテ?と首を傾げる。


「わあ、本当にその様子だと、すっかり興味がないみたいだね!もう一方の遊び人失格の方の話さ。先日、ルトが様子を見に行ったのだけれど。……どうにも、改心が難しいようでね」


あら、ちょっと予想通り。どうでもよすぎて、すっかり忘れていたけれど。


「フリーダとも何かあったようで、ルトがずいぶんとご立腹でね。彼のお母上は王様の妹だろ?病弱でもあるし、あまり心労をかけないように……まあ、王家もね、甘やかした判断をしていた訳だけど、さすがに無理だってことで、公爵家からは放逐になった。もちろん学園も退学させて、公爵の知人の商人に預けるらしい。諸外国を股にかける大商会だから、甘えた性根を叩き直して欲しい親心もあるのだろうがね」


フォンス様が眉を下げながら話す。彼もいろいろと思う所はあるのだろうな。ルト様もロイエも、弟のように可愛がっていたもの。


まあ、それはそれとして。


「うーん、それでも上手く女性に甘えて逃げる姿しか想像ができないわ」


「分かります」


「それより、フリーダは大丈夫かしら?そちらが心配よ。傷ついていなければいいけれど……」


「……殿下がお怒りとあらば、可能性は高いですよね」


「……そうよね。王都に帰ったらすぐに会いに行きましょう」


「そうですね。お手紙を出されますか?準備しておきますか?」


「ええ、お願いするわ」


「畏まりました」


「……って、おーい?!話にはちらっときいていたけど、本当にロイエはどうでもいいんだな?!確かにフリーダも心配だろうが、そっち?」


私とシスの反応に、フォンス様が一人つっこむ。


カルムは淡々とお茶を飲み、ハルマン様は苦笑しながらお菓子を摘まんでいた。


「ええ。私、自分を大事にするって決めていますから。それにもちろん、お友達も」


私はにこやかに応える。


「それは、まあ、大切なことだから当然だけど。私の記憶違いでなければ、二人はとても想い合っていたよね?言い方は悪いが、ずいぶんとあっさり……」


「想っていたからですわ、フォンス様」


フォンス様がハッとしたように私を見る。


「それは……うん、そう、そうだ、そうだよな」


「そうでしょう?」


さすが王国一の社交上手なだけあって、フォンス様は納得したように頷いた。


なんて言ってもね。もし、今回が初めての経験だったりしたら、私も引きずってすがったり、かわいさ余って憎さ百倍とかで、復讐するわ!とかなったかもしれないけれど。何せ二度目だし。人生一周分の記憶を思い出した今は、その時間がどれだけ勿体ない事か分かるのだ。


「人を変える事ができたら、素晴らしいのでしょうけれど。変えようと思って変えられることは少ないでしょう?特に事は。頑張って頑張って、それを出来ない自分を責めて自分をダメにしたくはないですし。伝わらない人には悲しいくらい伝わらないですし……そもそも、人を変えようなんて烏滸がましいと思った方がいいのでは、と思うのです」


ちょっと偉そうかしらと思ったけど、フォンス様は、うん、そうだな、と聞いてくれた。


「それにしても達観していて大したものだ。以前からしっかりしていたが、八つも年下のご令嬢と話しているとは思えないくらいだよ」


「あら、失礼な。可憐な17歳ですわ」


内心ちょっとドキドキだけど、おほほと言った体で返す。


「それは失礼。確かに、可憐で……しかも才媛だ」


フォンス様がなぜか甘やかな顔でこちらを見る。


「フォンス様……?」


「シャルリア嬢。本気で私の婚約者にならない?」


「え、無理です」


「まさかの即答?!」


フォンス様が心底驚いた顔をする。だって、ねぇ。


「ロイエとタイプが違うことは認識できるのですけれど。やっぱり王国一は、ちょっと」


私は右手の頬に手を当てて、そちら側に首を傾げる。


そしてその私の言葉にシスはひたすら頷き、カルムは腰辺りで小さくガッツポーズをし、ハルマン様は笑いを堪えていた。


「ぷっ、くふふ……王国一の社交上手も、シャルリアお嬢様にかかると一刀両断ですね。くくっ」


ハルマン様が助け船?を出してくれる。


フォンス様はハルマン様を軽く一瞥し、また私の方を見る。


「シャルリア嬢が婚約者になってくれるなら、改めるが」


「ご自分の行動の責任を、人に押し付けないで下さいな」


「くっ……!でもね、これも仕事というか、上に姉が三人もいるだろう?女性の扱いに厳しくてね、どうしても」


「何でも環境のせいにするのは、いかがなものかと。それにお仕事にしても、スマートにエスコートするのと、口説くのは別問題のような……」


「妖精姫、辛辣!……でもまあ、これからか」


「はい?」 


「いーや、何でも!」



その後は皆であれこれ騒いで。「はいはい。お話が済みましたら、お茶会は終了ですね。ではフォンス様、ごきげんよう」とのカルムの一声で、お開きになった。

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