第77話 立チ聞カレル

「あの、これなんですけどね……」


「ああ、これはまた、レトロなのが付いてますねえ」


 修理に呼んだ業者が、しげしげと黄ばんだインターホンを眺める。


「うんともすんとも言わないところを見るに、まあ経年劣化でしょうな。長持ちしてたが、とうとう寿命が来たんでしょう」


「はあ……。それで、取り換えてもらえるんですか?」


「ええ、まったく同じ性能のものがありますから、それにしておきますね」


「あ、それでしたら、最新機種にしてもらえませんか?モニターが付いてて、誰が訪ねて来たか分かる、録画機能も付いてるやつに」


「あ、それはできません」


「え?いや、できるでしょう。この間、家電に詳しい友人に訊いたら、問題なくできるだろうって言ってましたよ」


「あー……まあ、その通りなんですがねえ。お客さん、最近ここに引っ越してこられました?」


「え?はい、そうですけど……」


「不動産屋から説明がありませんでした?このマンションね、モニタータイプのインターホンにできないんですよ。変なのが映っちゃうから」


「……変なの?」


「ええ。なんかねえ、インターホンを押した人の後ろに、ぬぼーっと立ってるらしいですよ。それと目が合うと、ヤバいことになっちゃうらしいんです」


「ヤバいことって……」


「はあ、私もそこまで詳しいことは知りませんけどね。大体の場合、病院行きらしいですよ。中には、帰って来なかった人もいるとか。だからね、このマンションは音声で通話するだけの機種しか――」


「——―ガガッ……さっキかラまっテルんでスけドお……ガガッ、ピッ……」


 突如として、うんともすんとも言わなかったはずのインターホンから声が響いた。

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