第66話 裂ク

「私、綺麗?」


「え?」


「私、綺麗?」


「は、はい。綺麗だと思います」


「……これでも?」


 マスクを取り、少年に口元を見せつける。


「あ、ああっ……!」


 少年はマスクをモゴモゴさせて、言葉を失った。

 ……もういいだろう。

 リョウに、合図を送る。


「オッケー!ハハッ!いやあ、いいリアクション貰ったわあ」


「ねえ。このペン型カメラ、ちゃんと撮れてるの?」


「撮れてるよ。画質はちょっとアレだけどな」


「あ……あの、どういうことですか?」


 少年が、ポカンとした様子で訊いてきた。


「ああ、ごめんごめん。えっと……テッテレー!ドッキリでした!」


 リョウが、手際悪くドッキリ大成功!の札を見せる。


「……ドッキリ?」


「ごめんね、僕。お姉さんたちね、ユーチューバーなの。みんながマスクをしてるこのご時世に、口裂け女が現れたら今の小学生はどんな反応をするのか?っていう企画をやってたの。この口もね、特殊メイクってやつで――」


「酷い……」


 少年は、グスグスと泣き始めてしまった。


「び、びっくりさせちゃってごめんね。怖かったね、よしよし。……コラ、リョウ。何撮ってるのっ。あんたも謝ってっ」


「何言ってんだよ。こういうのが撮りたかったんだろ。それより、ほら、許可取り」


「もう……。本当に、ごめんね、僕。えっと、さっきのやつ、YouTubeに上げてもいい?あ、顔にはボカシを入れるから、安心して?男の子だもんね。泣いてるとこ、見られたくないよね?」


「うっ……ぐすっ……僕と同じ目に遭った人だと思ったのに……酷いです」


「え?」


「小さい頃、お母さんにやられて……それ以来、マスクが必要になって……嫌なこと言われていじめられたから、そいつらもお母さんも殺して……」


「ぼ、僕ちゃん、何言ってんだ?」


「そしたら、独りになっちゃって……あんなに憎かったのに、お母さんが恋しくなって……最近、みんながマスクしてるから、女の人がお母さんに見えるようになって……そしたら、お姉さんが現れて……」


「おい、サキ。もう行こうぜ。このガキ、なんか気味悪い――がっ!?」


 突然、リョウが倒れた。

 背中には、鋏が刺さって―――、


「きゃあああっ!」


「……お姉さん、責任取ってください。お姉さんが、僕のお母さんになってください。だから、僕みたいに……」


 少年がマスクを取ると、そこには、ぱっくりと裂けた口があった。

 リョウの背中から鋏が引き抜かれ、へたり込んだ私の顔に迫る。

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