第54話 唱エル
「あぎょうさん、あぎょうさん、どうかお越しください」
「あぎょうさん、あぎょうさん、どうかお越しください」
「……あぎょうさん、あぎょうさん、どうかお越しくださいっ」
「ねえ、もうやめようよ……」
椅子の上に立ち、教室の天井の換気扇に向かって呪文を唱え続けるミカのスカートを引っ張った。
「やだ。あぎょうさんが来るまで言う」
「そんなの、ただの噂だよ。あぎょうさんなんて、いないんだよ」
「じゃあ、タバタのこと、許すの?カナのお尻触ったクソ変態教師のこと、呪わなくていいの?悔しくないの?」
「それは……」
「絶対に許さない。あぎょうさんに頼んで、タバタのこと殺してもらうんだ。あぎょうさん、あぎょうさん、どうかお越しくださいあぎょうさん、あぎょうさん、どうかお越しください……」
その時、ガタタッと換気扇のカバーが揺れ、
「ひっ……!」
網目に、しわくちゃの顔が覗いた。灰色の髪を振り乱した、老婆の顔が。
「あ……あぎょうさん。え、えっと……、たぎょういち、ばぎょういち、たぎょういち……わぎょうに、かぎょうご、らぎょうご……さぎょうに、たぎょうし!」
ミカが呪文を唱えると、老婆の顔は引っ込んだ。かと思うと、天井裏からガサガサという音がして、それが遠ざかっていく。
「……ちゃんと、呪えたのかな?」
ミカが、ポツリと呟いた。
次の日、タバタは学校に来ていなかった。
その次の日、タバタが行方不明になっていると聞かされた。
私とミカは顔を見合わせ、密かに喜んだり、不気味に思ったり、釈然としなかったりしたが、やがて、恐ろしいことに気が付いた。
どの教室にいても、廊下を歩いていても、換気扇の網目や、エアコンの送風口、空いている穴や隙間から、あぎょうさんとタバタが並んでこっちをギョロギョロと見ているのだ。
逃がさない、とでも言いたげな、血走った目で。
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