第53話 別レル

「はあ、はあ……あっ!おい、見ろ!」


 兄ちゃんが指差した先には、民家のものらしき灯りがポツンと光っていた。


「や、やった……うあっ!」


 慌てたせいで、転んでしまう。もう何日も食べ物と水を口にしていないせいか、起き上がる力が無かった。


「はは、何やってんだよ。ほら、しっかりしろ」


「うう……ありがとう、兄ちゃん」


「行くぞ。これで、俺たち助かるんだ」


「うん……」


「どうした?ほら、早く行こう」


 兄ちゃんに肩を抱えられるようにして、灯りを目指した。何日もの間、彷徨いに彷徨った森を、あと一歩で抜け出ようとした時、


「……ねえ、兄ちゃん」


「どうした?」


「……僕たちって、本当に生きてるのかな?」


「はあ?急に、どうしたんだよ」


「だ、だって、実感が無いんだもん。父さんと母さんに言われた通りに、ガムテープを貼った車の中でバーベキューしたけど、あの時、僕たちって死んだんじゃないの?気が付いたら、車の外で兄ちゃんに起こされたけど、中で眠ってるみたいに死んでた父さんと母さんと一緒に、僕たちも車の中で……」


「俺たちが、幽霊だって言いたいのか?」


「……うん。じゃなきゃ、何日間もほとんど飲まず食わずで、森の中を彷徨えるはずがないし――」


「そんなわけないだろ。おりゃっ」


 兄ちゃんに、ほっぺたをつねられる。


「い、いたっ。何するの」


「痛いだろ?だから、幽霊じゃないんだよ、お前は」


「……ねえ、兄ちゃん」


「なんだよ?」


「……兄ちゃんは、痛くないの?」


 僕は、お返しに兄ちゃんの手首をつねっていた。


「……はは、バレちゃったか」


「に、兄ちゃんっ……」


「ほら、早く行け。俺はお前を助けだしたところで力尽きちゃったけど、お前だけは助かったんだ」


「や、やだよっ。兄ちゃんも一緒に――」


「ダメだよ。俺はここから出られない。だから、お前一人で行くんだ」


「そ、そんなのやだっ!一緒じゃないと、やだよ……」


「大丈夫。お前なら、きっと大丈夫だから、ほら」


「うっ……ううっ……」


 兄ちゃんに背中を押されて、森を抜けた。


「兄ちゃん―――」


 振り返ったが、そこにはもう、兄ちゃんの姿は無かった。

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