第38話 切リ抜ケル

「ほら、こっちが上の子で、こっちが下の子」


 上司が、スマホの画面を見せてくる。


「うわあ、二人とも可愛いですねえ。おいくつなんですか?」


「上の子が九つで、下の子が三つ。本当にもう、毎日毎日大変だよ。どっちもわがまま放題でさあ、まるで怪獣だ。この間なんか、上の子がゴキブリ捕まえた!って言って、手掴みで持ってきたんだから」


「ゴキブリを?アハハハッ。わんぱくですねえ。でも、男の子だったら、それくらいのことはするんじゃないですか?」


「男の子?何言ってんだ。上の子は女の子だぞ」


「え?あ、ああ、すいません。見間違えてました」


「見間違い?九歳と三歳の子を?お前、疲れてるんじゃないのか?」


「い、いえ、そんなことはありませんよ」


「そうか。お前、最近残業続きだったもんな。今日はもう、帰っていいぞ」


「えっ?でも、まだ書類が……」


「いいっていいって。俺に任せとけ。それに、早く帰ったら怪獣たちの相手をしなきゃいけないからな。たまにはぐっすりした頃に帰って、ゆっくりビール飲みたいんだ。だから、今日はもういいぞ」


「す、すいません……。じゃあ、お疲れさまでした」


「おう、お疲れ」


 オフィスを出ると、独り、ため息をついた。

 ……本当だったんだな。

 あの上司が、存在しない子供の写真を見せてくるという話は。

 この部署に配属された時、なんとなく対処法を聞かされていたから、どうにか切り抜けられたが……もう少し詳しく聞いておけばよかった。

 まさか、切断された二本の指が写っている写真を、子供だと言って紹介されるとは……。

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