第31話 崇メル

「カミ、くれませんか」


「えっ?」


「カミ、くれませんか」


「は、はい……」


 偶々持っていたポケットティッシュを差し出すと、全身黒づくめの不気味な男は、


「違う」


「え?」


「これじゃなくて――」


「ああ。カミって、そのことですか」


 バッグの中から、偶々持っていたカミサマを取り出した。


「……は?」


「あなたも信じたいんですよね、カミサマ。今ちょうど二体持ってますから、差し上げます。祀り方は心得てるんでしょう?毎日、薬指から血を垂らして飲ませてあげてください。たまに、あなた以外の血もあげると喜ばれます。一週間経ったら髪の毛と爪を、一カ月経ったら歯も食べさせてください。捧げれば捧げるほど、カミサマは力を強めます。口からオアオアと声を出し始めたら、次の領域へと行く兆候ですから――」


「あ、あの、すいません。これ、ドッキリなんです」


「え?」


「えっと、僕、ユーチューバーをやってて、カミくれ男でその辺の人を怖がらせようっていう企画を――」


「その辺の人?今、私のことをその辺の人って言いましたか?」


「えっ?」


「私はカミサマに身を捧げたんだっ!血も!髪も!爪も!歯も!眼球も!腎臓もっ!お前のような低次元の人間とは違うっ!」


「い、いや、そんな……がっ!う、ああ、あっ……」


 偶々持っていた儀式用の果物ナイフを突き立てて、男の息の根を止めてやった。

 さて、死体をどうするか……。


 ——―オアッ、オアアッ

 

「カミサマ?……ええ、分かりました。仰せの通りに。風呂場で行えば問題ないでしょう。低次元の人間とはいえ、尊い命ですものね。有意義に使ってあげなければ」


 カミサマの指示通り、私は男の死体を引きずりながら、帰路に着いた。

 

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