第22話 気ガ付ク

「……いいか。もう一度説明するぞ。四隅にそれぞれが座り、最初に俺が壁伝いに歩いて、肩を叩く。叩かれた者は同じように、壁を伝って次の者の肩を叩く。これを繰り返して、全員が眠らないようにするんだ。暖を取れないこの山小屋で、俺たちが朝まで無事に生き延びるには、この方法しかない」


 凍てついた暗闇の中、みんなが頷く気配がして、思わず声を上げた。


「ちょ、ちょっと待ってください。それじゃあ、無理ですよ」


「何がだ?」


「だって、四隅に四人が座るんでしょう?だとしたら、最初に歩き出す人の場所には、誰もいなくなるじゃないですか。その方法は、五人じゃないと成立しないんです。僕たちは四人。一人足りません」


「何を言ってるんだ?俺たちは五人じゃないか。俺と、サトウと、カトウと、イトウと、お前で」


「……え?」


「ほら、五人いるから、この方法は成立するんだよ」


「あ……あの……」


「何だ?」


「……あなた、誰ですか?」


 僕、サトウ、カトウ、イトウが一斉に、今にして思えばまったく聞き覚えの無い声がしていた方を向いた瞬間、


「……あーあ、気が付かなきゃ良かったのに」


 暗闇の山小屋に、誰のものでもない不気味な声が響いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る