第8話 真似ル

「ぽっ……ぽぽっ……」


「ぽぽっ……ぽぽぽっ……」


「ぽぽぽっ……ぽぽぽぽっ……」


 境内の片隅にある小さなお堂の中から、変な声が聴こえてきた。

 閉め切られている扉を、ドンッと叩いてやる。


「きゃっ」


「ハハッ。何やってんの、レナ」


「違うよ、八尺様だぞう」


「はいはい。分かったから、早く出て来いよ、レナ。かくれんぼは、もう終わり」


「やだねー。わたし、レナじゃないもん。八尺様だもーん」


「バカだな。八尺様って、ぽぽぽぽとしか言わないんだぞ。そんな風に話せるわけがないだろ」


「話せるよ」


「え?」


「八尺様はね、ぽぽぽぽとか、ぼぼぼぼとか以外にも、普通に喋れるんだよ。狙った対象の親しい人間の声色を真似ることができるんだよ」


「何言ってんだよ、レナ。ほら、早く出て来いって。神社の人に見つかったら、怒られるんだから」


「……ひどい」


「何が?」


「わたしのこと、よく知らないなんて、ひどい」


「知ってるよ。好きなジュースはリプトンのレモンティーで、好きなお菓子はポテチのコンソメ味。初めてキスしたのは……その……この間、部活の帰り道に、俺と……」


「キスしたの?この女と?」


「……え?」


「ひどい、ひどい、ずっと前から、まだ身長が、わたしの膝くらいまでしかない時から、シュウちゃんのこと、好きだったのに。こんな女とイチャイチャしてたなんて、ひどい」


「な……何言ってんだよ。ほら、レナ、早く帰ろ――」


 扉を勢いよく開け放すと、小さなお堂の中に、白いワンピースに身を包んだ巨大な女が、窮屈そうに身を曲げて入っていた。

 小脇には、首があらぬ方向に曲がっているレナを、人形のように抱えている。


「シュウちゃんなんか、もう知らない」


 死んでいるはずのレナの声と共に、お堂の中から巨大な手が、ぬらりと俺に伸びる。

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