第30話 それぞれの挑戦(1)



 3人で、話をしていると、車庫にハイエースが戻って来た。

 どうやら、運転しているのは、一さんのようだ。

 一さんは、どこかに行っていたらしい。


 しばらくして、一さんが車庫から出てきたので、私はテラスから声を上げた。


「おかえり~~。一さん、どこに行ってたの?」


「ただいま~~。少し、向こうに戻っていた」


「へぇ~」


 何か忘れ物でもあったのだろうか?

 斎君と、綿貫君も声を上げた。


「一さん、おかえりなさい」


「おかえりなさい」


 すると、一さんが、綿貫君を見て楽しそうに笑った。


「綿貫君。バイク……乗りたいんだろ? 乗ってみるか?」


「え?!」


 それを聞いて、私たちは急いで、車庫に向かった。

 すると、車庫には、私のKTMと、一さんのスズキが並んでいた。


「一さん、バイク取りに行ってたの?」


 私の声に、一さんが楽しそうに笑った。


「あはは、まぁな……。綿貫君、バイク乗りたかったんだろ? 瑞樹と斎が、バイクで飛び出して行った後、乗りたそうな顔してたからな……バイクに乗りたいって、言ってる男に、バイクに乗らせねぇなんてことになったら、あの世に逝って、すみれさんに説教されちまう」


綿貫君が、驚いたような顔をした後に、一さんを見ながら言った。


「え? わざわざ……俺のために?!」


 一さんは、片眉を上げて答えた。


「いや、すみれさんに説教されたくないからな……俺のためだ。明日から、瑞樹と斎は、研修が始まるんだろう? その間。綿貫君は、俺のスズキに乗ればいい。乗り方教えてやるよ。瑞樹、KTM借りるぞ」


「うん」


 一さんは、綿貫君の指導をしてくれるらしい。一さんは、オフロードの大会に出ることはないが、たまに私に指導してくれる。

 それに、一さんの説明は、わかりやすいので、初めて乗る綿貫君もきっと乗れるようになるだろう。

 私がそんなことを考えていると、綿貫君は深く頭を下げた。


「一さん、ありがとうございます!! 嬉しいです。よろしくお願いします」


「ああ。じゃあ、明日な、綿貫君」


「はい」


 一さんは、伸びをするとロッシに戻って行った。

 綿貫君は、明日から一さんにバイクを教えて貰えるらしい。


「一さんに教えてもらえるなら、綿貫君と走れる日も近いな」


 斎君が嬉しそうに言った。


「だね」


 私も、嬉しくて、同意したのだった。





 しばらくすると、夕食の時間になった。

 今日は、ロッジの外で食べるようだ。

 父と母が、炭をおこして準備をしていた。


 私たちも、準備を手伝っていると、知った声が聞こえた。


「瑞樹ちゃん~~」


「え? 吉田さん?!」


 なんと、吉田さんと、もう一人、若い男性が一緒に来ていた。

 すると、一さんが、吉田さんに向かって話かけた。


「あ~吉田さん。今回は、色々ありがとうな」


 すると、吉田さんが嬉しそうに笑った。

 

「なに。瑞樹ちゃんだけでじゃなく、斎君も山の研修受けてくれんだろ。

 先祖から引き継いだ山だ。その山を、若い2人が守ってくれるなら、こんな嬉しいことはないからな。2人に紹介しようと思ってな。

 2人に、山のことを教えてくれる、市川林業の社長のお孫さんの夏生君だ」


 夏生さんは、20代後半くらいで、日に焼けていて、とても爽やかな雰囲気の人だった。

 

「どうも。本当に、若いですね。嬉しいです。ケガしないように、死なないように、しっかり教えるんで、なんでも聞いて下さい」


「ありがとうございます」


「よろしくお願いします」


 私と斎君は頭を下げた。


「今日は、猪の肉を持ってきた。冷凍で悪いが、食べてくれ」


 猪の肉?

 ジビエ料理というものだろうか?

 初めて食べるジビエ料理興味を持っていると、母が声を上げた。


「よかったら、一緒にどうですか?」


「ああ、では、お言葉に甘えましょうかな~~」


 吉田は、嬉しそうに言った。


「妻が食事の用意をしてくれているので、……少しだけ」


 どうやら、夏生さんには奥様がいらっしゃるらしい。

 私たちは、野外でバーベキューをしながら、吉田さんと、夏生さんに山のことを聞いてみることにしたのだった。


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