第27話 バイク三昧




 鳥の声で目を覚ました。

 どうやら、この辺りの鳥は、とてもおしゃべりのようで、先程から、ずっと色んな鳥の鳴き声が響いている。


「晴れてる!!」


 私は、ベッドから飛び起きると、着替えを済ませて、洗面台に向かった。

 顔を洗って、柔らかなタオルを顔に押し当てていると、「おはよう」と声をかけられた。


「おはよう」


 タオルを取って、鏡を見ると、綿貫君がふにゃりと、笑っていた。


 ブォン!!


 すると、近くでエンジン音が聞こえた。

 あの音は、斎君のヤマハだ。


 斎君はどうやら、もうバイクを乗りに行ったらしい。


「わ~~斎君。もう、乗りに行ったんだ。工藤も行くの?」


 綿貫君の言葉に、私は、タオルを置くと急いで答えた。


「もちろん、私も行くよ!!」


 出遅れてしまって、焦りながら、玄関に向かうと、ヤマハのエンジン音が遠ざかって行った。どうやら、斎君は、すでに山に向かったようだった。

 

 ライダーブーツを履いて、玄関を出て、車庫に向かうと、ヘルメットとゴーグルを付けた。車庫の中に朝日が入り、私の愛車であるカワサキを照らしてくれた。


 とてもキレイだと思った。

 バイクにまたがり、エンジンを付けた。


 カワサキのエンジン音が、朝の空気の中、まるで喜んでいるように感じた。

 ハンドルを握りしめて、クラッチを握った。


 寝ぼけた頭はどこかに、吹き飛び、バイクのことしか考えられなくなる。

 エンジン音と共に、景色が流れ始めた。



 ――最高だ!!



 誰もいない。

 朝の美しい景色が独り占め。


 私は、最高の気分で、バイクを走らせたのだった。


 この辺りの林道は、私道になっているので、自分で整備する必要があるが、吉田さんが、バイクのコースとして開放してくれていたこともなり、かなりいいコースになっている。

 朝から、こんな素晴らしい林道を走れることが、幸せ過ぎて、嬉しくて、嬉しくてたまらない。


 バイクの運んで来る風と空気は美味しくて、まさに最高の甘味のようなのだ。


 しばらく走って、いると前方に、斎君を見つけた。

 斎君は、ちょうど、岩飛びをしている最中だった。


 斎君の岩飛びに触発されて、私も、少し傾斜のある斜面を一気に登った。

 登り切った場所からは、朝日が見えた。


 山の緑に、朝日が反射して、幻想的な風景だった。

 その風景に、斎君と、斎君のヤマハが映る。


 斎君のヤマハは、今日も絶好調のようだった。

 私も、負けていられない。


 ハンドルを握ると、私も飛ぶように、斜面を滑り降りたのだった。




 好きなだけ、バイクに乗りまくって、気が付くと一日が終わりそうになっていた。

 明日は研修があるが、今日は特に何もすることがないからと、好きなだけバイクに乗った。



「工藤って……本当に、バイクが好きなんだな」


 夕方になって、汗と、泥まみれだったので、お風呂に入って、テラスで麦茶を飲んでいると、綿貫君が話しかけてきた。


「あ、ごめんね。ずっとバイク乗ってて……」


「どうしてあやまるんだよ。勉強、すっげぇ、はかどったし」


 綿貫君は優しく微笑んでくれた。


「うるさくなかった?」


「全然。ほとんど、気にならないレベルだったよ」


「そうなんだ……」


 てっきり、ここまでエンジン音が聞こえているのかとも思ったが、山に入ると、ほとんど音は聞こえないらしい。


 すると、聞きなれたエンジン音が近づいてきた。

 どうやら、斎君が戻ってきたようだ。


 ブォン!!

 車庫からエンジン音が消えると、しばらくして、斎君が姿を見せた。


「おかえり~斎君」


 斎君に声をかけると、斎君がこちらを見上げながら言った。


「ただいま~~~。あちぃ~~~~。俺も水浴びしよ~~」


 斎君は、車庫にバイクを置くと、お風呂に向かったようだった。



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