第9話 青春しよう(2)
水族館に着くと、自由行動になった。
私は、迷わず、大きな水槽の前に行った。
――来た!!
小さな魚の大群を除けて、エイが岩肌を斜めに、抜き去って行った。
カッコイイ……。
実は、私の持ち技のようになっている岩肌を斜めに登って、抜き去る技は、このエイの動きを参考にしている。
他にも、岩を飛ぶ、助走位置などは、イルカのジャンプを参考していたり、結構、水族館の生き物を参考にしていた。
昔、水族館に来た時に、バイクのレースでもコース取りと、水族館の水槽の中を泳ぐ魚のコース取りは、かなり近いように思ったのだ。
いまも、大きな水槽を見ていると、魚たちは、速度に合わせて、それぞれ道を見つけて、泳いでいた。
海面すれすれを泳ぐ無難な者も多いが、縦横無人にコース取りをして泳ぎ回る魚も多い。
なんでもバイクに結び付けてしまうのは、もはや、私のクセだが、もう、こういう考え方しか出来なくなっているのだ。
それほど、あの、バイクという乗り物は魅力的だ。
「瑞樹~ここに居たんだね」
私が、魚の動きに興奮しながら水槽を見ていると、愛音に話しかけられた。
愛音は、北川君と、楓と、横谷君と、綿貫君の5人で回っているようだった。
「あれ? 莉奈は?」
私が尋ねると、楓が、楽しそうに顔を寄せて来た。
「あの2人。付き合ってるみたい。手、絡めて繋いでたんですけど……。今度問い詰めなきゃ」
「へぇ~」
そう言えば、車内でも距離が近いように感じたが、付き合っていたのか……。
付き合うというのも、高校生になったらよく聞く言葉だが、一体何をどうするのだろう?
検討もつかない。
「ねぇ、もうすぐペンギンショーがあるみたいだけど行く? 私たちはこれから向かって場所取りするよ~」
愛音に尋ねられた。
ペンギンショーは、平均台の上を飛び越える練習を思い出す。
久しぶりにペンギンの動きを観察してもいいかもしれない。
でも、私は目がいいので、遠くで見ても問題ない。
「行くけど……ギリギリに行くよ」
「じゃあ、工藤の席も取っとこうか?」
北川君が、親切に提案してくれたが、私は首を振った。
「いや、私の席はいいよ。気になる動きが見える場所で見るから」
「そっか……」
「あはは、瑞樹っぽい。じゃあ、またね~~」
楓が楽しそうに笑うと、みんな、ペンギンショー向かった。
私は、楽しそうに笑う愛音と、北川君を見て、小さく呟きながら大きな水槽に視線を向けた。
「よかった、上手くいきそう」
「何が?」
私は、聞こえて来た声に、驚いて、急いで隣を見た。
すると、私の隣に綿貫君が立っていた。
「あれ? 綿貫君、何してるの??」
「ああ、さっき、工藤、すげぇ、楽しそうにこの水槽見てたからさ……何があるんだろうっと思って」
綿貫君は、水槽を見ながら答えた。
「え? みんな探してるんじゃない?」
「大丈夫。横谷には伝えたから」
「……そう?」
伝えた……のならいいのだろうか?
私が首を捻っていると、綿貫君は声を上げた。
「ねぇ、工藤は、そんなに真剣に何、見てたんだ?」
「ああ、今は、エイを見てたかな。大きな水槽の魚の動きって、参考になるから」
なんのとは言わなかった。
なんとなく、言わない方がいいように思ったのだ。
すると、綿貫君は私をじっと見ながら言った。
「参考になるって……もしかして、バイクの?」
どうやら、綿貫君は、それだけで私の意図を理解したようだった。
「……うん」
嘘をつく必要もないので、私は素直に頷いた。
すると、綿貫君は、楽しそうに笑った。
「あはは、魚みながら、バイクのこと考えてたんだ。工藤って……本当に、バイクが、好きなんだな……」
私は、水槽を見ながら頷いた。
「うん……凄く、好き」
自分の好きな物を好きだと言えるのは、幸せだと思った。
特に私の好きな物は、嫌悪感を抱く人も多い。
でも、綿貫君はなんとなく、好きなものを好きだと言っても、眉をしかめたりはしないように思ったのだった。
「工藤、そろそろ、ペンギンショー始まるよ?」
「え、じゃあ、行こうか」
無言で、大きな水槽を見ていると、ペンギンショーの時間になったようだった。
綿貫君に促されて、ペンギンショーを見て、イルカショーも見た。
水族館を堪能して、少し遅いお昼を食べることになった。
お昼は、ファーストフード店で、テイクアウトして、みんなで海で食べた。
梅雨の晴れで、まだ暑くもなく、外で食べるには、丁度いい気候だった。
みんなで、食事をしていると、急に北川君が大きな声を上げた。
「あ~、実はさ、俺と柿崎、付き合うことになったから」
北川君の言葉に、愛音が照れたように言った。
「……うん。付き合うことにナリマシタ」
愛音の後に、井川君が嬉しそうに声を上げた。
「やっとかよ、北川、よかったな。あ、ちなみに、俺も上原と付き合ってるから」
井川君は、莉奈の手を取って言った。
みんな、なんとなく気づいていたが、はっきりと言われて、ようやくすっきりした。
「ずっと、黙っててごめんね」
莉奈が私たちに、眉を下げながら言った。
「それはいいけど……どうして黙ってたの?」
楓が冗談っぽく言った。すると、莉奈が顔を真っ赤にしながら言った。
「……恥ずかしくて……」
「ヤベッ~~~、俺の彼女がマジで可愛いんですけど」
照れている莉奈を、井川君が抱きしめた。
「ちょっと、人前!!」
莉奈が、真っ赤な顔で、井川君の頬を押した。
「いいじゃん、もう付き合ってること言ったんだしさ。イチャイチャしよう」
「イヤです!!」
莉奈が、井川君を押し返した。
どうやら、この場には、彼氏彼女の関係になった人が半分もいるらしい。
青春過ぎる。
私は、楽しそうなみんなを、どこかテレビの中の出来事を見るように、完全に他人事として、見ていたのだった。
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