第8話 青春しよう(1)




 次の日。私は、待ち合わせ場所である高校の近くの公園の駐車場に、約束の20分前に着いた。

 いつも渋滞などの不測の事態を考えて、行動しているので、大抵の場合、約束の時間の30分から20分前に到着するクセがついているのだ。

 私は、車から降りて、公園の入口に向かった。


「おはよう!! やっぱり早いねぇ~瑞樹は~」


 入口には、愛音が一人で立っていた。愛音は、私が早く来ると予想して、早く来てくれたのだろう。


「おはよう……愛音こそ、早いね」


「まぁ……ね」


 

 愛音はどこか、そわそわしていた。無理もない。これから、ずっと好きだった北川君と会うのだ。

 私は、愛音のように、誰かを好きだと思ったことがない。カッコイイや、素敵な人だとは思うが、恋という感情ではないように思う。


 人生には、好きの上限があったりするのだろうか?

 もし、好きに上限があるなら、私の好きは、ほとんどバイクに向けられている。


 出会った時の胸の高鳴り、失った時の痛み、一緒にいる時の幸福感。

 それらは、全て人ではなく、バイクがもたらしてくれる。


 私が、バイクよりも人に夢中になっている姿を自分で想像できない。


「ねえ、瑞樹。私、助手席乗った方がいいよね?」


 愛音が、私の顔を見ながら言った。


「え? いやいや、北川君の隣に乗りなよ。助手席には誰も乗らなくていいよ」


「そんな……運転中は、瑞樹の隣にいるよ。水族館に一緒に行けるだけで十分だし」


「本当にいいよ。愛音と話してたら、話に夢中になって、道間違えそうだし。後ろに乗って」


 私が笑うと、愛音が申し訳なさそうに、ありがとうと言った。

 愛音と話をしていると、いつの間にか15分前になった。


「おはよ~2人共、早いな~~。柿崎、工藤。今日は、誘ってくれて、ありがとうな」


 声のした方を見ると、綿貫君が立っていた。そう言えば、綿貫君は、北川君と仲がよかったことを思い出した。


「おはよう、綿貫君」


 愛音の後に、私もあいさつをした。


「おはよう」


 誰が来るのか知らなかったが、まさか、綿貫君が来るとは思ってもいなかった。

 この前、助けて貰った恩もあるので、ぜひ、この機会に綿貫君にも青春をしてほしいと思ったのだった。



 それから、時間になり、メンバーが全て揃った。

 女の子は、調理部、元部長の上原うえはら 莉奈りなと、元テニス部の佐藤さとう かえでと、そして、元テニス部の愛音と帰宅部の私。

 男の子は、井川いがわ 健人けんと君と、横谷よこや 隼人はやと君、そして、北川君と、綿貫 宗介そうすけ君。

 この8人だ。ちなみに、男子は全員、元テニス部だ。

 全員揃ったので、私は、みんなを車に案内したのだった。



「すげぇ……工藤がこれ運転するの? 俺、てっきり、工藤の兄弟とかが運転してくれるかと思った。あ、イヤとか、不安だって、言ってるわけじゃないからな」


 北川君が、車を見て驚いた声を上げた。


「安全第一で運転するね。後ろに7人乗れるから、好きに座ってね」


 私はそう言うと、運転席に乗った。

 ドアが、空いているので、ルームミラーで、みんなの様子がよく見えた。

 みんなが、自然に誘導して、一番後ろの席に、愛音と北川君が座った。なんだか、2人とも、照れて顔が赤くなっているように見える。「よろしくな」「よろしくね」微笑み合っている。


 あれ? この2人すでに両想いなのでは?

 

 私は、ルームミラーを見ながら、そう思った。

 すると、真ん中に、莉奈と井川君が乗った。なんだか、2人の距離が近い気がする……気のせいだろうか?

 そして、その前の席に、楓と、横谷君が乗った。2人とも楽しそうに、話をしていた。

 

 2人とも同じ部活だったので、仲がいいのだろうか?

 

「お邪魔しま~す」


「え?」


 私が、ルームミラーでみんなの様子を見ていると、助手席に綿貫君が乗って来た。

 てっきり、後ろに座ると思っていたので、綿貫君が助手席に乗ってきて、私は驚いてしまった。


「みんなと話しなくていいの?」


 私が尋ねると、綿貫君が、困ったように笑いながら言った。


「いや~~~俺、あそこにいると、明らかに邪魔だし……今日だけ、工藤が、俺の面倒みてよ?」


「私、気の利いた話できないよ?」


 そう言うと、綿貫君が楽しそうに笑った。


「あはは。俺も出来ないから問題なし」


 問題ないのだろうか?

 私は、首を傾けながらも、みんなに大きな声で言った。


「みんな~~シートベルト付けてね。……絶対付けてね。シートベルトは、1点減点だから。免許更新もゴールドなら、年数長くて、お得なので、私はそれを狙っています。だから、絶対付けてね」


「もちろん」


「了解~~」


「へぇ~後ろも付けなきゃダメなのか~~オッケ」


 私が念を押すと、みんな快く、付けてくれた。一応、ルームミラーでみんなが付けたかどうか確認して、助手席も確認した。そして、ルームミラーと、サイドミラーを確認して、発進した。


 車内はすぐに賑やかになった。私が公園を出ようとすると、綿貫君が感心したように言った。


「さすが、工藤……ミラーの調節とか、シートベルト確認とか、ちゃんとしてんだな……そういうキッチリしたところは、素直に尊敬する」


 バイクという乗り物は、ルーズに見えて、実はとても緻密で、繊細な乗り物なのだ。

 祖父の一さんも、父もかなり几帳面だ。私もその血を確実に引いている。


「ありがとう」


 私は素直にお礼を言ったのだった。

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